研究課題/領域番号 |
23591658
|
研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
川上 民裕 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (20297659)
|
キーワード | メラノサイト / 皮膚色素細胞 / メラノブラスト / 活性型ビタミンD3 / 遺伝性対側性色素異常症 / 白斑 / BMP4 / Mitf |
研究概要 |
マウス皮膚色素細胞(メラノサイト)は、胎生9日頃、神経管から発生し、皮膚に向かい遊走、胎生12日頃に表皮に到達する。色素細胞で産生されるメラニン合成にかかわるチロシナーゼ関連蛋白質1(Tyrosinase related protein-1; Tyrp1)が、発生分化の段階でどのように色素細胞と関連しているかは、未だ不明な点が多い。最も幼若な発生段階といえるマウスメラノブラストであるNCCmelb4M5細胞にTyrp1のRNA干渉による抑制をかけたところアポトーシスを起こし細胞死に至った。さらにMitfmi-ewマウスを用いたマウス神経冠初代培養系では、多くのTyrp1陽性細胞が、MITF非存在下であっても、色素細胞内で充分に発現していた。Tyrp1は、MITFと関連のない系でも、重要な因子として色素細胞に何らかの作用を行っている可能性が高い。さらに、BMP4、Retとの関連を検討中。 紫外線の照射により、角化細胞(ケラチノサイト)はエンドセリンを産生し、エンドセリンは皮膚表皮内の色素細胞を刺激し、色素細胞で産生されるメラニンの生成が増加するといわれている。活性型ビタミンD3外用と紫外線照射の併用による治療は、皮膚表皮内の色素細胞が機能しない尋常性白斑に臨床的に効果がある、とされているが、その機序がはっきりしない。まず、細胞増殖能をみる実験系Alamar blue法にて、より未分化なメラノブラスト程、活性型ビタミンD3の影響をうけていることが明らかとなった。こうした分化の段階に、活性型ビタミンD3が関与している。 遺伝性対側性色素異常症は常染色体優性遺伝の色素異常症で、原因遺伝子が2本鎖RNA特異的adenosine deaminase遺伝子(ADAR1)と同定され診断法が確立した。その診断のもと、エキシマランプ照射を併用した1mmミニグラフト術を用い、治療に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写因子MITFは、発生初期の色素細胞の生存維持に大きな役割をしている。そこで、MITFの影響を除外する目的で、MITFを突然変異させたMitfmi-ewマウスを用いた。このマウスの神経冠初代培養系を施行した。そこに、TPAとコレラトキシンを加え分化の刺激をすると、多くのTyrp1陽性細胞が出現してきた。また、NCCmelb4M5細胞を使用した。マウスメラノブラストNCCmelb4M5細胞は、Tyrp1のRNA干渉によって、細胞死を起こしてしまう。そこで、NCCmelb4M5細胞、Tyrp1のsiRNA導入後にBaxとFasの発現を調べてみると、mRNA量が増加し、アポトーシスの関与が推測できた。一方、NCCmelb4M5細胞より分化段階が上のNCCmelb4細胞とNCCmelan5細胞は、Tyrp1のRNA干渉を行っても、正常に増殖し細胞死はない。ここから、Tyrp1は、MITFやBMP4、Retと関連のない、より未分化な状況で、重要な因子として何らかの作用を行っている可能性が高い。 細胞増殖能をみる実験系Alamar blue法にて、マウスメラノブラストと活性型ビタミンD3との変化をみた。NCCmelb4M5細胞は、活性型ビタミンD3 10-9M以上の濃度で細胞増殖を阻害された。やや分化の進んだNCCmelb4細胞は、10-8M以上で阻害された。さらに、NCCmelan5細胞は、10-7M以上で阻害された。ここから、より未分化なマウスメラノブラスト程、活性型ビタミンD3の影響をうけていることが明らかとなった。 48歳、男性の遺伝性対側性色素異常症の診断としてADAR1遺伝子のシークエンス検査を行い、c.3203G>T,p.G1068Vの変異をもつことが確認された。さらに、ミニグラフト術を施行し、色素をおこすことに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒトメラノサイト、ヒトメラノブラストを使用し、all-trans retinoic acid(ATRA)と活性型ビタミンD3の脂溶性ビタミンの影響を検討する。方法は、Alamar Blue法での細胞増殖能、チロシナーゼ活性の測定、電子顕微鏡でのメラノソーム形状観察、Western blotting法でのエンドセリンレセプター発現観察、DOPA反応である。また、色素細胞全体を総括する転写因子Mitfやチロシナーゼ、チロシナーゼ関連蛋白(Trp-1、Dct)、エンドセリン、エンドセリンレセプター、Kit、Kit ligand、DOPAなどの色素細胞関連物質や抗酸化物質(カタラーゼ、ユビキノール、ビタミンEなど)、さらにCD4+およびCD8+エフェクターT細胞の浸潤との関連等を検討する。 ヒト皮膚由来人工多能性幹細胞(iPS細胞)からの色素細胞の誘導をめざす。iPS細胞は、血液細胞(T細胞)を用い樹立したものを共同研究施設から購入予定である。まず、iPS細胞株の培養をし、ヒトメラノサイトへの分化をめざす。ここには、当然、BMP4 やMITF、Retの存在が関与している可能性が高い。iPS細胞株からの分化誘導を行う条件設定がポイントとなる。 既存のさまざまな治療に難治性であった尋常性白斑患者や遺伝性対側性色素異常症の新しい治療法の確立をめざす。まず、採皮する正常皮膚にエキシマライト照射し、白斑部に1mmトレパンパンチで5㎜おきに孔をあけ、正常皮膚を植皮、術後は、植皮した部位にエキシマライト照射を、1-2週間に1回照射を行うミニグラフト術を施行する。治療前、治療3か月後、6か月後にVASI scoreを測定し、進行度判定に照らし効果の評価を行う。また、植皮部の皮膚標本におけるさまざまな因子の発現を検討し、ミニグラフト術治療効果との関連を探る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ヒト皮膚色素細胞(メラノサイト)と色素前駆細胞(メラノブラスト)はすでに入手した。まず、細胞増殖能をみる実験系Alamar blue法にて、all-trans retinoic acid(ATRA)と活性型ビタミンD3をさまざまな濃度で培養し、阻害までの濃度を検討する。その条件のもと、チロシナーゼ活性の測定、電子顕微鏡でのメラノソーム形状観察、Western blotting法でのエンドセリンレセプター発現観察、DOPA反応を行い、分化における相違をみつけていく。 iPS細胞株を、マイトマイシンC処理により増殖を停止させたマウス胎児線維芽細胞等のフィーダー細胞上で多能性幹細胞を共培養する。マトリゲル基底膜マトリックスでiPS細胞をsubculture、BMP4 やMITFを中心としたさまざまな因子によって、ヒトメラノサイトの樹立をし、誘導されたヒトメラノサイトの培養を行う。そして、iPS 細胞から誘導されたヒトメラノサイトの性状を確認、位相差顕微鏡、共焦点顕微鏡(蛍光顕微鏡)、チロシナーゼ関連蛋白(Trp-1、Trp-2/DOPAクロムトウトメラーゼ;Dct)、Kit、チロシナーゼ、エンドセリンBレセプター、DOPAといった色素細胞マーカ―の発現レベルを確認する。 尋常性白斑の治療に対するアプローチを行う。術前に、採皮する正常皮膚にエキシマライト照射。白斑部に1mmトレパンパンチで5㎜おきに孔をあけ、正常皮膚を植皮。術後は、植皮した部位にエキシマライト照射を、1-2週間に1回照射を行う。白斑の評価は、日本皮膚科学会尋常性白斑診療ガイドラインで提案された6段階評価法(100%、90%、75%、50%、25%、10%)を用いる。
|