研究課題/領域番号 |
23591661
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
山西 清文 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (10182586)
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キーワード | 魚鱗癬 / ケラチン / トランスグルタミナーゼ / 魚鱗癬様紅皮症 |
研究概要 |
角化型ケラチンによる魚鱗癬として、K10の変異では水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症、周期性魚鱗癬、K1の変異ではそれ以外にCurth-Macklin型豪猪皮様魚鱗癬、水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症の非典型例の報告がある。K1は掌蹠に発現しているため、掌蹠角化症を伴うことが多く、症状が掌蹠角化症のみの場合もある。本年度の研究では、中等度の掌蹠角化を合併した水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症の病態について検討を行った。この症例では予想に反し、遺伝子解析ではKRT10遺伝子にc.470T>Cの変異が検出された。この塩基置換はK10のコドン157のロイシンがプロリンに置換する点突然変異に相当する。このアミノ酸は最も変異の多いコドン156のアルギニンに隣接し、ケラチン10分子のヘリックス開始モチーフに存在する。通常、K10の変異では掌蹠の過角化は伴わないが、本症例では掌蹠の過角化を伴っており、従来の概念とは異なる機序を想定することが必要と思われた。 非水疱型魚鱗癬様紅皮症で報告のあるトランスグルタミナーゼ1のR143C変異に相当するR142C変異を持つノックインマウスはこの酵素のノックアウトマウスと同様の症状を示すが、そのメカニズムは不明であった。今回の解析では、このマウスの皮膚では、変異トランスグルタミナーゼ1mRNAの発現は野生型と同じ程度であったが、タンパクについては非常に少ないことが皮膚抽出タンパクのウエスタンブロッティングにより証明した。この変異マウスの培養角化細胞でもトランスグルタミナーゼ1の活性は低く、従って、トランスグルタミナーゼ1のR142C点突然変異により、生体レベルで酵素の不安定性が生じ、マウスではトランスグルタミナーゼ1欠損と同様の症状を示すに至ることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度につづき、表現型が従来の概念では説明できない魚鱗癬症例の遺伝子解析が実施できたことは非常に貴重な機会であった。また、トランスグルタミナーゼ1にR142C変異をもつ点突然変異マウスが、この酵素のノックアウトマウスと同様の症状を示すことについて疑問を抱いていたが、変異タンパクの不安定性が病態に関連することが証明でき、一つの大きな研究課題を達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も実際の魚鱗癬症例の解析から、遺伝子変異によって生じる表現型の多様性に新たな課題が生じた。今後予算が得られれば、全exome解析を行って表現型の多様性にアプローチしたい。一方で、変異から魚鱗癬の症状形成に至る分子機構については未だ解明が不十分であり、この点を踏まえ、トランスグルタミナーゼ1変異マウスを使って、表現型の形成に関わる遺伝子プロフィールの解析も実施する必要があると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、トランスグルタミナーゼ1欠損およびR142C変異マウス、さらに、魚鱗癬様紅皮症患者の皮膚で発現する遺伝子をアノテーションが明確な低密度アレイを用いてスクリーニングし、その結果に基づいて定量的RT-PCRを実施して魚鱗癬の特異な表現型に関わる機能分子を探索する。また、表現型の免疫学的特性についても解析を継続する計画である
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