全身性自己炎症性疾患の1つであるTRAPS (TNF receptor associated periodic syndrome)はその原因がTNF受容体遺伝子の変異であることが、明らかにされたが、その病態の全貌はまだ解明されていない。TRAPSのマウスモデルが完成すれば、脾臓、心臓など人では直接解析が難しい全身の多臓器の組織学的、分子生物学的検討が容易となるほか、免疫不全マウスへの移植実験などを通じて、より詳細な免疫学的解析が可能となる。また、種々の新規治療法を開発するにあたり、希少疾患であるこの病気にも大規模な検討を行うことができる。TRAPSのマウスモデルはさらに、これまであまりよく分かっていなかったTNF受容体を介した自然免疫の制御についての新しい知見をもたらすのではないかと考え、TRAPSのマウスモデルの作製ならびにその解析を行う。重症TRAPS患者において変異のあるTNF受容体遺伝子と相同なマウスTNF受容体遺伝子(Tnfrsf1a)変異を含んだプラスミドpcDNA3.1mTnfrsf1aを作製し、プラスミドpcDNA3.1mTnfrsf1aを制限酵素BlnIとPvuIで切断し、切断断片をC57BL6/Jマウス受精卵に注射する。マウスの胎盤、尻尾のDNAを精製し、プラスミドが挿入されているかどうかを尻尾から精製したDNAを用いて検討する。解析した99検体のうち3検体がプラスミドDNAを含んでいた。1匹は胎内で死亡し、1匹は死亡時期が不明で死亡、1匹は生後6週で死亡した。生後6週で死亡したマウスは体重が22.5gと同週令のマウスの体重25gと比較して軽かった。皮膚組織を検討すると毛器官が成長期にあり、同週令のマウスが休止期であることと比較し、毛周期に異常があることが明らかとなった。これらの結果から、マウスで変異TNF受容体遺伝子を全身に強制発現させると、死亡につながる障害が起こる可能性が示唆された。また、毛周期のコントロールにTNF受容体が関与していることが推察された。
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