研究課題/領域番号 |
23591664
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
中永 和枝 国立感染症研究所, ハンセン病研究センター・感染制御部, 主任研究官 (40183884)
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研究分担者 |
星野 仁彦 国立感染症研究所, ハンセン病研究センター・感染制御部, 室長 (20569694)
石井 則久 国立感染症研究所, ハンセン病研究センター, センター長 (50159670)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | buruli ulcer / Mycobacterium ulcerans / M. shinshuense / M. pseudoshotosii / M. shigaense |
研究概要 |
ブルーリ潰瘍はMycobacterium ulcerans感染によって引き起こされる難治性の大きな潰瘍を特徴とする皮膚疾患であり、主として熱帯、亜熱帯地域でみられる。Neglected Tropical DiseaseのひとつとしてWHOもその対策を進めており、従来は熱帯地方のみの感染症と考えられてきたが、現在世界33か国以上にその広がりがみられる。日本でも"M. ulcerans subsp. shinshuense"感染によるブルーリ潰瘍が明らかとなりつつあるが、アジア地域でのブルーリ潰瘍の報告はほとんどない。本研究はこれら世界のブルーリ潰瘍対策を確立することが目的で、まず日本のブルーリ潰瘍症例を収集し、早期診断法・治療法を確立し感染源の特定を目指すとともに、医療関係者、特に皮膚科医への啓発を行っている。本研究の申請時には2010年10月末日までの累計18例(国内感染例)について確定診断を行ってきたが、2012年3月末日までには、さらに国内感染14例を収集した。検体の採取にあたっては、例数は少ないものの潰瘍辺縁部よりもむしろ潰瘍底(深部)サンプルで菌の存在が確認できる傾向がみられた。また、培養に関しては血液寒天培地での菌分離の可能性が示された。さらに検体の輸送に関しては、抗生物質(PANTA, 日本ベクトンデッキンソン)を加えた7H9ベースの軟寒天培地を用いた輸送用培地での常温輸送が可能となった。また、M. ulceransと同様にIS2404をもつ致死的魚病抗酸菌症の原因菌M. pseudoshotosiiの分離・同定に成功し、環境調査における鑑別が重要であるM. ulcerans類似菌が日本にも存在することを明らかにした。さらに、皮膚科よりの検体を精査する際に他の希少抗酸菌感染症をも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の達成度に関しては、おおむね順調に進展していると考える。なぜなら、論文発表や学会発表、その他の啓発活動を行う事により医療関係者、特に皮膚科医のネットワークができつつあり、ブルーリ潰瘍の症例収集が順調に進んでいるからである。また、WHOとの連携や、WHOのブルーリ潰瘍ワーキンググループとの情報交換なども順調であり、アジア地域へも啓発活動を広げるべく、連携を試みている。皮膚科医への啓発活動と連携によって、潰瘍や皮膚病変を呈する患者検体が多く集まるようになったため、検体採取の方法、検体の輸送方法、培養方法など検査に関する調査研究が予定通りに進められ、結果として新たな日本の14例をブルーリ潰瘍と確定診断することができた。さらに、日本のブルーリ潰瘍についての治療法に関しても、症例が増えたことで重要な知見が得られた。また、ブルーリ潰瘍の鑑別診断を行う上で、あるいはMycobacterium ulceransの鑑別同定を行う上で重要な種々の皮膚感染症や致死的魚病抗酸菌感染症などの原因菌を分離することに成功し、同定を行う事にも成功した。その他、ブルーリ潰瘍の症例を収集したことにより、岡山県の症例が8例に上り、環境調査を開始するモチベーションが上がっている。また、福島県の事例であるが、親子3人で発症した例(母親および男児1、女児1)があり、感染源特定のため調査中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、まず、今後も日本の、そしてできることならアジアの症例を収集するべく、皮膚科医ネットワークを広げていく。検査法の確立に関しては、検体採取法の検討、菌の同定のための培養方法の検討、簡便なPCR法による鑑別同定法の確立がほぼ達成できたと思われるので、残りのリアルタイムPCR法の開発を進める。また、M. ulceransおよびM. ulcerans subsp. shinshuenseは分離培養に時間がかかるため、分離が成功した菌株はまだ少ないが、薬剤感受性試験を実施する。臨床的にはリファンピシン、クラリスロマイシン、レボフロキサシンの3剤併用療法を推奨しているが、実際の臨床での有効性もあわせて検証を行う。また、去年度にほぼ確立できた方法を検証して、早期診断法および治療法の確立をめざす。すなわち、1.検査法の確立: 1)検体採取法の検討。2)菌の同定のための培養方法の検討。3)簡便なPCR法による鑑別同定法の確立。4) 確定診断のための検査法の有効性の検討。5)環境調査のためのリアルタイムPCR法の確立。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は、学会発表(日本結核病学会など)やWHOのブルーリ潰瘍定例会(スイス、ジュネーブ)での発表のため、旅費として40万円程度を、論文発表のための外国語論文校閲のため謝金などを8万円程度、論文投稿や掲載料のためその他として12万円程度を、試薬消耗品を80万円程度、合計約140万円を使用予定である。
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