研究課題/領域番号 |
23591664
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
中永 和枝 国立感染症研究所, ハンセン病研究センター・感染制御部, 主任研究官 (40183884)
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研究分担者 |
星野 仁彦 国立感染症研究所, ハンセン病研究センター, 室長 (20569694)
石井 則久 国立感染症研究所, ハンセン病研究センター, センター長 (50159670)
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キーワード | buruli ulcer / Mycobacterium ulcerans / M. shinshuense / マイコラクトン / MPM |
研究概要 |
ブルーリ潰瘍はMycobacterium ulcerans感染によって引き起こされる難治性の大きな潰瘍を特徴とする皮膚疾患であり、主として熱帯、亜熱帯地域でみられる。Neglected Tropical DiseasesのひとつとしてWHOもその対策を進めており、従来は熱帯地方のみの感染症と考えられてきたが、現在世界33か国以上にその広がりがみられる。日本でも“M. ulcerans subsp. shinshuense”感染によるブルーリ潰瘍が明らかとなりつつあるが、アジア地域でのブルーリ潰瘍の報告はほとんどない。 本研究はこれら世界のブルーリ潰瘍対策を確立することが目的で、まず日本のブルーリ潰瘍症例を収集し、早期診断法・治療法を確立し感染源の特定を目指すとともに、医療関係者、特に皮膚科医への啓発を行っている。 本研究の申請時には2010年10月末日までの累計18例(国内感染例)について確定診断を行ってきたが、2012年12月末日までには、さらに国内感染18例を収集した。検体の採取、輸送法を改善し、生検皮膚組織に加え潰瘍病巣のスワブを抗生物質入り軟寒天培地に封入した常温輸送を可能とした。また、パラフィン切片サンプルからのDNA抽出法を改善して検出率が向上し、過去の症例を調べる可能性が広がった。治療に関しては、リファンピシン、クラリスロマイシン、レボフロキサシンの3剤を推奨しており成果を上げている。 皮膚科医への啓発が十分ではないため、原因不明の難治性潰瘍として長期間種々の抗生物質投与後に紹介される例がいまだに多いが、比較的早期にブルーリ潰瘍を疑い、検査の結果確定診断に至る例も増えつつある。今後は、より正確な病気の経過、感染の時期や感染から発症までの期間などを明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の達成度に関しては、おおむね順調に進展していると考える。なぜなら、ブルーリ潰瘍の確定診断検査を行う過程で、皮膚科医との連携が緊密なものとなり、多くの検体が寄せられるようになったため、これまではあまり見られなかった比較的早期のブルーリ潰瘍の症例が収集できるようになったからである。そのため、菌の分離成功例も増加している。 また、WHOとの連携や、WHOのブルーリ潰瘍ワーキンググループとの情報交換なども順調であり、アジア地域へも啓発活動を広げるべく、連携を試みている。検体採取の方法、検体の輸送方法、培養方法など検査に関する調査研究によって種々の改善が予定通りに進められ、多くの非結核性抗酸菌皮膚感染症例の検査を実施し、結果として新たな日本の18例をブルーリ潰瘍と確定診断することができた。さらに、日本のブルーリ潰瘍についての治療法に関しても、症例が増えたことで重要な知見が得られた。また、ブルーリ潰瘍の鑑別診断を行う上で、あるいはMycobacterium ulceransの鑑別同定を行う上で重要な種々の皮膚感染症や致死的魚病抗酸菌感染症などの原因菌を分離することに成功し、同定を行う事にも成功した。その他、岡山県および栃木県で1件ずつブルーリ潰瘍の家族内発症例があり、感染源特定のための調査も推進中である。 これらに加えて当初にはまったく予定していなかった新学術領域研究「ゲノム支援」の支援を受けられることになり、日本のブルーリ潰瘍の原因菌である“Mycobacterium ulcerans subsp. shinshuense”の全ゲノム解析を進めている。原因菌の詳細なゲノム情報が明らかになると、これまでの遺伝子検査方法をさらに進展させるうるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、まず、今後も日本の、そしてできることならアジアの症例を収集するべく、皮膚科医ネットワークを広げていく。 検査法の確立に関しては、検体採取法や輸送方法の確立、菌の分離培養方法や、簡便なPCR法による鑑別同定法の確立などがほぼ達成できたので、成果として発表に力を入れていく予定である。さらに全くの想定外に新学術領域のゲノム支援をえられることになり、“M. ulcerans subsp. shinshuense”の全ゲノムシークエンスの解析を開始したので、日本各地で得られた分離株のゲノム比較を行えるようにしたい。環境調査のためのリアルタイムPCR法の確立に先駆けてゲノム解析を推進していく予定である。 また、“M. ulcerans subsp. shinshuense”は培養に時間がかかるため、通常のマイクロ ダイリューション方法だけではなく、コロニーreduction法などを用いた薬剤感受性試験を実施する。臨床的にはリファンピシン、クラリスロマイシン、レボフロキサシンの3剤併用療法を推奨しているが、実際の臨床での有効性もあわせて検証を行い、ここでも成果を発表していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は、学会発表やゲノム支援を受けるため、旅費として15万円程度を、論文発表のための外国語論文校閲のため謝金などを10万円程度、論文投稿や掲載料のためその他として30万円程度を、試薬消耗品を43万円程度、合計約98万円を使用予定である。
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