研究概要 |
接触性皮膚炎やアトピー性皮膚炎に代表される炎症性皮膚疾患は、免疫系、表皮バリア機能、掻破などが複雑に絡み合った複合アレルギー疾患である。免疫学的恒常性の維持や免疫応答の制御に脂質メディエーターが関与する事が最近知られてきているが、皮膚における役割については十分理解されていない。10種類のアイソザイムからなる細胞外分泌性PLA2(sPLA2)は、リポ蛋白質や細胞の外側からリン脂質膜を加水分解しリゾリン脂質と遊離脂肪酸を産生するが、その生体内機能については不明な点が多く残されている。我々はこれまでに炎症性皮膚疾患と関わりのある細胞に特徴的に発現しているsPLA2アイソザイムを見出しており、本研究ではsPLA2遺伝子改変マウスをツールに炎症性皮膚疾患における時空間的な脂質ネットワークを解明し、これを理論基盤とした創薬および予防治療の可能性を検討することを目的としている。 本年度は、Th1免疫応答のDNFB誘導接触性皮膚炎、Th2免疫応答のOVA反復塗布誘導アトピー性皮膚炎、DMBA-TPA皮膚癌を各種sPLA2-KOマウスに適用して解析をおこなった。その結果、接触性皮膚炎に関連するsPLA2としてsPLA2-V,-X,-IIF,-IID,-IIIを同定した。そのうちsPLA2-IIDは、接触性皮膚炎の炎症収束(寛解)に関わり、炎症収束期のリンパ節のホスファチジルエタノールアミンを基質とし選択的に高度不飽和脂肪酸を遊離し、抗炎症性脂質メディエーターの産生を制御していることが明らかになった。さらに、アトピー性皮膚炎に関連するsPLA2として、sPLA2-III, -Vがそれぞれ抑制的および促進的に機能すること、sPLA2-IIFが皮膚癌の成長に機能することを見出した。現在、表現型の詳細な機能解析および関連する脂質分子の同定を行っている。
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