研究課題
本年度は、リンパ組織のPLA2G2Dが抗炎症性リピッドメディエーターの産生を促し、炎症免疫応答の収束を制御することを示した。脾臓とリンパ節での発現が極めて高いPLA2G2Dは、その中でも樹状細胞(DC: CD11c+細胞)に高発現している。DCにおけるPLA2G2Dの機能を調べる目的で、ハプテン誘導接触性皮膚炎モデルをPla2g2d-/-に適用してその表現型を精査した。Pla2g2d-/-では皮膚炎応答の開始と進行は野生型マウスと同様に起こるのに対し、皮膚炎後期の浮腫の収束が見られず炎症が持続した。この収束期の皮膚と所属リンパ節における各種炎症性マーカーの発現は、野生型マウスに比べてPla2g2d-/-では顕著に高い値を示した。Pla2g2d-/-より調整した骨髄由来DC(BMDC)は野生型マウス由来BMDCと比較して活性化が亢進しており、Pla2g2d-/-OのBMDCを移植した野生型マウスに抗原を単回塗布すると、野生型マウスのBMDCを移植したマウスに比べて浮腫が増悪した。さらに脂質メタボローム解析の結果、PLA2G2Dはリンパ節において高度不飽和脂肪酸を持つホスファチジルエタノールアミンを基質として抗炎症性脂質とされるドコサヘキサエン酸 (DHA)の遊離に関わることが明らかとなった。以上の結果から、PLA2G2DはDC由来の“抑制性”sPLA2であり、抗炎症性脂質の産生を制御することで炎症を収束する役割をもつことが示唆された。また抗皮膚癌薬のスクリーニングを目的としてPLA2G2Fを指標とした知見について特許出願をおこなった。
2: おおむね順調に進展している
接触性皮膚炎においてPLA2G2Dが炎症の収束に関わる脂質メディエーターの産生に関わることを論文報告した。皮膚の恒常性維持および皮膚癌に関する脂質ネットワークの詳細については現在論文にまとめているところである。
アトピー性皮膚炎および乾癬に関わる脂質ネットワークの詳細について検討を進める。また、リンパ球サブセットにおける脂質プロファイリングの検討もおこなう。さらに抗体および低分子阻害薬を用いた治療戦略を進めて行くために抗体作製および阻害剤スクリーニングのための組換え蛋白質の調製をおこなう。
申請者の所属機関における遺伝子改変マウスの維持費は、現状規模では一ヶ月約50千円である。本研究においては年間600千円が見込まれるが、その一部を本申請分で支払い、不足分は所属機関の公費でまかなう。残りの経費を遺伝子解析および脂質解析などに必要な一般試薬消耗品に充て、不足分は所属機関の公費を使用する。研究成果を国内外の学会で発表することを考慮し、本年度は日本生化学会および5th International Conference on Phospholipase A2 Mediated Signaling in Translational Medicineを設定する。また、本年度の論文報告を見込み、論文発表の英文校正と論文投稿費を計上する。年次毎に一時的な研究補助員(動物管理)の謝金120千円(月10千円X12ヶ月)を設定する。
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