研究課題
IL-33は、上皮細胞や血管内皮細胞等、バリア組織細胞中の核内に恒常的に発現する核内因子として同定されたが、その生理作用については不明であった。最近になり、皮膚においてもIL-33は尋常性乾癬やアトピー性皮膚炎の病変部で増加していることが報告されているが、IL-33の皮膚組織細胞に対する作用については不明である。前年度は、皮膚組織細胞(表皮角化細胞、皮膚線維芽細胞、皮膚微小血管内皮細胞)をIL-33で刺激した際、発現変動する遺伝子についてGeneChipを用いてスクリーニングし、IL-33は皮膚組織細胞の中でも、特に表皮角化細胞および皮膚微小血管内皮細胞に作用して好中球性炎症に関与している可能性が示唆された。そこで本年度は、掻破刺激モデルとして表皮角化細胞の細胞破砕液でintactな表皮角化細胞および皮膚微小血管内皮細胞を刺激し、どのような遺伝子が発現誘導されるのか、検討を行った。細胞破砕液の抽出は、confluentまで培養した表皮角化細胞をPBSで2度洗浄し、表皮角化細胞の専用基礎培地(増殖因子等の添加因子は全て除いたもの)中にcell scraperで物理的にはがして回収し、液体窒素による凍結融解を5回行った。さらに15000rpm, 5min遠心した上清を増殖培地に10分の1量加えた培地で刺激を行った。その結果、表皮角化細胞に対しては影響を与えなかったが、皮膚微小血管内皮細胞に対しては、前年度に行ったIL-33による刺激の場合と同様、刺激後3~6時間をピークとするIL-8およびIL-6の顕著な遺伝子発現誘導が確認された。以上の結果は、掻破刺激が炎症性分子の誘導を引き起こし炎症悪化に繋がる機序の存在を示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
IL-33は特にバリア組織に恒常的に発現するアレルギー関連遺伝子であることから、皮膚組織におけるその作用標的細胞を同定することは、喫緊の課題であった。本年度の研究成果により掻破刺激がIL-33同様に皮膚微小血管内皮細胞に作用して、主に好中球性炎症に関与するサイトカイン・ケモカインを強力に誘導することが明らかとなった。このことは、当初の研究目的である皮膚バリア機能の傷害と炎症の増悪を結びつける機序の解明に対して、今後の研究の方向性・発展性を示唆するきわめて重要な成果である。この点で概ね目標を達成していると思われる。一方、ここにIL-33がどのように関与しているのかについては、明らかにするまでには至らなかった。
IL-33がマスト細胞や自然リンパ球などの血球系細胞に作用した場合、IL-13等Th2サイトカイン産生を強力に誘導することが知られているが、皮膚組織ではIL-33同様、掻破刺激モデルにおいてもTh2関連因子よりも、むしろ好中球関連因子の発現を顕著に誘導した。この点に関する考察として、創傷や掻破などにより皮膚バリアが破壊された場合、皮膚組織中に恒常的に発現しているIL-33が皮膚組織の破壊に伴い放出され、近傍のインタクトな皮膚組織細胞に作用して好中球遊走因子を大量に放出させる可能性が推察される。傷口からの病原体侵入を防ぐため創傷部位に好中球を動員させることは、生体防御の初期応答としても理にかなっている一方、アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患病態との関連については未だに不明である。掻破刺激モデルにおける炎症分子の誘導にIL-33が関与しているのか否かについては今後明らかにしなければならない課題である。この点については、表皮角化細胞のIL-33をsiRNAによりノックダウンさせた細胞破砕液で検討する予定である。一方、表皮角化細胞にはIL-33以外にも様々な分子が存在しているので、表皮角化細胞中のどのような因子が炎症の誘導に関与しているのか、生化学的な手法で細胞破砕液を分画し、炎症誘導能を比較する予定である。最終的には、皮膚バリア機能の傷害と炎症の増悪を結びつける因子としてIL-33が決定的なのか、あるいは他の因子が決定的であるのかについて明らかにしたい。また、表皮のバリア破壊は様々な血球細胞の動員を誘導する。まだあまり研究が進んでいない血球細胞におけるIL-33の発現についても今後検討を進める予定である。
日常的な実験で消耗する試薬類(細胞培養用培地、核酸抽出キットなど)や機能解析のための抗体、試薬キット、さらには学会での研究成果発表のための旅費、英文校正費の諸費用に研究費を使わせていただく予定である。
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