研究課題
本研究では中性アミノ酸のキラル特性に着目し、とくにD-セリンの脳内代謝調節にかかわる分子機構の解析およびその臨床応用を図ることによって難治性統合失調症の分子病態に基づいた新規治療法の開発を促進することを研究全体の最終到達目標としている。大脳皮質においてD-セリンに対してキラル選択的に発現応答性を示す遺伝子を同定し、それらの遺伝子産物を標的とする統合失調症治療候補薬のスクリーニング法を確立する。大脳新皮質においてD-セリンに対してキラル選択的に発現応答性を示す遺伝子に関して、統合失調症の分子病態モデルにおける役割を解析し、これらの遺伝子産物を標的とする統合失調症治療候補薬のスクリーニング法の開発を試み、今年度は下記の成果を得た。 D-セリン応答遺伝子dsr-3の脳内発現を詳細に検討した。ラットにおいて生後8日齢の大脳新皮質に転写レベルで高い基礎発現を認め、前脳部優位の発現パターンを示すことが明らかとなった。成長とともに成熟ラット脳ではdsr-3の発現は減少するが、やはり前脳部優位の発現パターンは保たれる。肝臓などの末梢組織での発現ははるかに低いことから、遺伝子産物が前脳部優位の高次神経機能にかかわる可能性が示唆される。現在、ヒトD-セリン応答遺伝子およびそれに関与するNMDA受容体機能修飾因子の統合失調症との疾患遺伝子関連解析を開始しており、統計学的解析をすすめつつある。難治性統合失調症の少なくとも一部においてNMDA受容体機能低下が推定されているが、D-セリンはこのNMDA受容体に対し内在性アロステリック・アゴニストとして作用する。ラットの行動異常(移所運動量亢進、常同行動等)に対して脳室内D-セリン投与により改善効果が得られることや臨床試験の結果などから、D-セリンによるNMDA受容体作用の増強によって統合失調症の既存抗精神病薬に抵抗性の症状を改善することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
大脳皮質においてD-セリンに対してキラル選択的に発現応答性を示す遺伝子を同定し、その脳内発現について解析を行なってその発現分布を明らかにした。また応答遺伝子等のヒト統合失調症における関連解析も進捗しつつある。
動物モデルにおけるD-セリン応答遺伝子の発現機能解析をすすめる。また、ヒトD-セリン応答遺伝子およびそれに関与するNMDA受容体機能修飾因子の統合失調症との疾患遺伝子関連解析を推進し、多検体での解析のみならず、発症年齢などのちがいに着目した統計学的解析をすすめていく。
1. D-セリン応答遺伝子dsr-3その他の遺伝子産物の発現および機能解析2. 統合失調症の薬理学的動物モデルにおける応答遺伝子にかかわる病態機能解析これらは、前年度と同様におもにラットをもちいた解析(神経生化学的および行動薬理学的解析)を継続する。 3. ヒトD-セリン応答遺伝子およびそれに関与するNMDA受容体機能修飾因子の統合失調症における関連解析各候補遺伝子の領域に存在する一塩基多型(SNPs)について主としてTaqman法を用いて解析をすすめる。
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臨床精神薬理
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