研究課題
本研究では、統合失調症の分子病態に基づいた新規治療法の開発をめざし、脳内中性アミノ酸のキラル特性に着目し、とくにD体アミノ酸のひとつであるD-セリンの代謝調節およびそのキラル選択的な作用標的であるNMDA型グルタミン酸受容体(以下NMDA受容体)のシグナルにかかわる分子機構の解析およびその臨床応用を検討している。大脳皮質においてD-セリンに対してキラル選択的に発現応答性を示す遺伝子を同定し、それらの遺伝子産物を標的とする統合失調症治療候補薬のスクリーニング法を確立する。大脳新皮質においてD-セリンに対してキラル選択的に発現応答性を示す遺伝子に関して、統合失調症の分子病態モデルにおける役割を解析し、これらの遺伝子産物を標的とする統合失調症治療候補薬のスクリーニング法の開発を試みている。今年度は下記の成果を得た。 D-セリン応答遺伝子および代謝関連遺伝子の脳内発現を詳細に解析した。また、D-セリン選択的な応答遺伝子と、統合失調症様症状発現薬と考えられるメトアンフェタミンおよびフェンサイクリジンによって発現の変化を示す遺伝子を網羅的に比較し、それらの共通遺伝子に着目した。さらにヒトD-セリン応答遺伝子およびそれに関与するNMDA受容体機能修飾因子(SAP97ほか)の統合失調症との疾患遺伝子関連解析をすすめ、統計学的解析の結果、統合失調症との有意な関連が示された。現在、発症年齢に着目した詳細な検討を加えつつある。ラットの行動異常(移所運動量亢進、常同行動等)に対してもD-セリン投与により改善効果が得られることや臨床試験の結果などからも、キラル特性に基づいたNMDA受容体作用の増強によって統合失調症の既存治療薬抵抗性の症状を改善することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
D-セリン応答遺伝子および代謝関連遺伝子の脳内発現解析が順調に進捗した。また、D-セリン選択的な応答遺伝子と、統合失調症様症状発現薬と考えられるメトアンフェタミンおよびフェンサイクリジンによって発現の変化を示す遺伝子を網羅的に比較し、それらの共通遺伝子の解析が進展しつつある。さらにヒトD-セリン応答遺伝子およびそれに関与するNMDA受容体機能修飾因子(SAP97ほか)の統合失調症との疾患遺伝子関連解析をすすめ、統計学的解析の結果、統合失調症との有意な関連が示された。
今年度に引き続き、さらに動物モデルにおけるD-セリン応答遺伝子の発現機能解析をすすめる。また、ヒトD-セリン応答遺伝子およびそれに関与するNMDA受容体機能修飾因子の統合失調症との疾患遺伝子関連解析を推進し、発症年齢、性差などのちがいに着目した統計学的解析をすすめていく。
1. D-セリン応答遺伝子、その他の関連遺伝子産物の発現および機能解析2. 統合失調症の薬理学的動物モデルにおける応答遺伝子にかかわる病態機能解析これらは、これまでと同様におもにラットをもちいた解析(神経生化学的および行動薬理学的解析)を継続する。3. ヒトD-セリン応答遺伝子およびそれに関与するNMDA受容体機能修飾因子の統合失調症における関連解析各候補遺伝子の領域に存在する一塩基多型(SNPs)についてひきつづき解析をすすめる。
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