研究課題/領域番号 |
23591677
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
橋本 恵理 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30301401)
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研究分担者 |
鵜飼 渉 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40381256)
山田 美佐 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所, 研究員 (10384182)
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / うつ病 / 神経新生 / 神経幹細胞 / 抗うつ薬 |
研究概要 |
本研究においては、神経新生促進因子を中枢⇔末梢両面からに治療的に活用するという発想に基づいて、障害された脳神経回路網の修復・再構築に寄与する因子の抽出を試み、まず初めにBDNFの神経新生促進作用に関する検討を進めてきた。BDNFは脳内のみならず末梢血にも存在し、その多くが血小板で貯蔵、放出されることから、抗うつ薬を処置した際の血小板からの遊離能に関する検討を行った。成体健常ラットから採取した血小板にSSRI, SNRI等の抗うつ薬を添加することにより血小板からのBDNF遊離が促進されるが、モデル動物においては血小板からのBDNF遊離の低下が認められた。また、末梢血中のBDNFが脳内へ移行し作用している可能性が指摘されており、治療的応用も期待されるところから、末梢から中枢への影響に関する検索を進めた。昨年度の研究において末梢BDNF投与後の脳内移行に関する検討を行い、末梢BDNF-FITC投与24時間後にラット海馬歯状回にBDNF-FITCの集積を認めたが、今年度は更なる治療的試みに向けて、神経幹細胞の末梢からの脳内移行に関する検討を加えた。免疫原生が極めて低く成体適合性が高いバイオマテリアルであり、近年核酸医薬デリバリーシステム等においてその汎用性および安全性から担体としての臨床応用が期待されているアテロコラーゲンに着目し、神経幹細胞移植の際のより効率的な脳へのデリバリーシステムとして有用であることが示唆された。さらに、抗うつ薬の慢性投与後にマウス海馬で発現変化するPlasticity related gene 1(Prg1)について、海馬における発現分布を検討し、海馬歯状回の顆粒細胞での発現および神経細胞のマーカーであるNeuNと共局在を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経新生促進因子の中枢-末梢両面からの活用による神経回路網修復促進機構の解明を図るため、今年度はこれまでの研究により抗うつ薬による神経新生促進因子として抽出したBDNF等の因子について、抗うつ薬を処置した際の血小板からの遊離能に関する検討を開始した。成体健常ラットから採取した血小板にSSRI, SNRI等の抗うつ薬を添加することにより血小板からのBDNF遊離が促進されるが、同様の方法でモデル動物の血小板からのBDNF遊離が低下することに関して、各種抗うつ薬による比較検討を進めている。さらに、近年ドラッグデリバリーシステム等において担体としての臨床応用が期待されているアテロコラーゲンに着目し、神経幹細胞の末梢からのより効率的な脳へのデリバリーシステムとして、アテロコラーゲンが有用であることが示唆された。これは神経幹細胞を用いた再生医療的アプローチにおいて具体的な臨床応用に結びつくことが期待される有益な結果であると考えられ、この点においては当初の予定以上の進展といえる。また、神経新生促進時の中枢における変化を分子レベルで把握する試みを続け、神経細胞の生存維持に働く因子として新たにPlasticity related gene 1(Prg1)の重要性が示唆された。現在、その役割について、Wistar ラット(E14)の終脳より単離しニューロスフェア法により増殖させた神経幹細胞をbFGF除去により分化させて作成した神経細胞を用いて、更なる検討を進めており、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究において、抗うつ薬の慢性投与後にマウス海馬で発現変化するPrg1に着目し、海馬における発現分布を検討した。Prg1は、主に脳内神経細胞に発現する脱リン酸化酵素であるが、その詳細な機能は不明なため、今後、Prg1の機能に関する検討を進める。具体的には、Wistar ラット(E14)の終脳より単離しニューロスフェア法により増殖させた神経幹細胞をbFGF除去により分化させて作成した神経細胞にPrg1 siRNA を導入する方法で、神経細胞の生存に対するPrg1 siRNAの効果の検索を行い、神経新生促進時の中枢における変化の分子レベルでの把握を目指す。また、モデル動物から採取した血小板分画を用いて、抗うつ薬(SSRI, SNRI等)を処置した際の血小板からのBDNF,PDGF等の遊離能を評価し、対照群および疾患対照群との比較検討を含め、解析を進める。平成24年度の研究成果の1つであるアテロコラーゲンを用いた神経幹細胞移植に関しては脳内での動態の追跡解析を進めていき、さらにモデル動物での行動解析を加えていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費の使用計画に関しては、消耗品費として、研究遂行に必要不可欠な神経幹細胞の培養材料、細胞機能評価に用いる試薬、末梢血因子遊離機能評価に必要な試薬、実験器具類等に必要な経費を使用する予定である。さらにこれまでの研究成果に基づき、モデル動物から採取した血小板分画を用いた抗うつ薬による血小板からのBDNF遊離機能の評価、モデル動物に対するアテロコラーゲン処置した神経幹細胞の経静脈的移植の検討を進める計画であり、対照群、病態モデル群、疾患対照群等に分けた実験用動物の購入や維持・管理などに加え、末梢血と脳内双方からの検索に必要な各種動物実験のための経費を使用する。 また、国内外での学会でのデータ収集および研究成果発表のための費用を年間数件程度見込んでいる。現時点では2013年開催の国際学会WFSBPおよびESBRAでのシンポジウム発表が既に決まっており、そのための旅費、参加費として使用予定である。
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