研究課題/領域番号 |
23591678
|
研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
吉永 敏弘 札幌医科大学, 医学部, 助教 (70404704)
|
研究分担者 |
橋本 恵理 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30301401)
鵜飼 渉 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40381256)
館農 勝 札幌医科大学, 医学部, 講師 (60464492)
安宅 弘司 札幌医科大学, 医学部, 助教 (30563358)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 精神薬理 |
研究概要 |
うつ病や患者において,末梢血中の脳由来神経栄養因子(BDNF)との関連が多く報告されているが,末梢血BDNFがうつ病の病態・治療にどのような意義を持つのかについては明らかにされていない。またインターフェロン治療中にうつ病を合併しやすいことが知られており,うつ病患者の脳内で炎症性サイトカインが増加していることが報告されている。そこでインターフェロン誘発性うつ病における血中BDNFの動態変化を解析した。インターフェロン療法を受けた患者の血清サンプルを解析した結果,インターフェロン治療開始後に,ほぼ全ての患者において,血中BDNFが有意に低下した。そのうち,睡眠障害や食欲不振など,何らかの抑うつ症状を発現した患者では血中BDNFの減少の程度が有意に高かった。抑うつ症状を呈した患者には抗うつ薬や睡眠薬が使用され,これらの患者では,薬剤投与後に血中BDNFの急激な増加が認められた。また,末梢血BDNFの血液脳関門(BBB)を介しての脳内移行性について,ラットを用いて検討した。ラット尾静脈より蛍光標識したBDNFを投与後に,脳組織切片を作成したところ,末梢血内へ投与したBDNFが,特に海馬歯状回領域でBBBを超えて脳内へ移行し脳の実質細胞に取り込まれていた。以上より,うつ病と末梢血中BDNF低下との相関,また抗うつ薬が末梢血中のBDNFを増加させ,増加したBDNFがBBBを通過して中枢神経系に作用することで症状を改善させている可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
計画した程度には,当該研究に時間を割くことができなかった。サイトカインと精神疾患に関連した予備的研究として,インターフェロンとうつ病に関する研究を行った。しかし,G-CSFを用いた検討には至らなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与が精神疾患の病態を改善させる可能性について,胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)を用いて行動薬理学的に解析するとともに,行動異常改善と結びつく脳内神経回路網変化を検索する。次に,末梢血中の造血幹細胞が脳内に移行する機序の解明と,それによる脳神経系の変化を調べるために,GFP(green fluorescent protein)ラットを用いて,骨髄細胞をGFP陽性細胞に入れ替えたレシピエントラットにG-CSF投与し,血管周囲に存在する移植細胞や血管表皮細胞の表面抗原・接着因子の変動解析を実施するとともに,G-CSF投与による脳神経回路網変動における,末梢血造血幹細胞の役割を検出する。具体的には骨髄細胞をGFP陽性細胞に入れ替えたFASDラットを作製し,G-CSF投与後の脳スライス切片を用いて脳内に移行したGFP陽性細胞を評価・検索する。また,FASDに特徴的な症状である,多動性,衝動性への,G-CSFの効果に関して,高架式十字迷路や自発運動測定を行い評価する。G-CSF 投与による脳神経回路網の変動について,認知記憶,社会性機能と関わりが深い領域(帯状回,海馬,扁桃体,視床等)で,これまでに我々が,神経保護・神経新生機能に関与し,FASDの脳病態に深く関わることを明らかにしてきた分子群(I型およびVIII型アデニル酸シクラーゼ,転写因子であるCREB,NRSF,TLX,および小胞体シャペロン分子GRP78)の発現変化を調べる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
動物実験では対照群,正常+G-CSF使用群,病態モデル群,病態モデル+G-CSF使用群に分けた,多数のラットを用いて,長期に渡り行動薬理学的変化を評価,観察する必要があり,実験動物の購入と維持に多くの経費を見込んでいる。消耗品としてはGFPラットの骨髄細胞培養用の材料,免疫組織化学的解析用のプレートや抗体の費用を計上する。当該年度の実支出額が所要額に達しなかったのは,研究計画に遅れを生じていることに由来する。
|