研究課題/領域番号 |
23591678
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
吉永 敏弘 札幌医科大学, 医学部, 助教 (70404704)
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研究分担者 |
橋本 恵理 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30301401)
鵜飼 渉 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40381256)
館農 勝 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (60464492)
安宅 弘司 札幌医科大学, 医学部, 助教 (30563358)
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キーワード | 精神薬理 / 顆粒球コロニー刺激因子 / 胎児性アルコールスペクトラム症候群 |
研究概要 |
幹細胞治療は脳の疾患に対しても盛んに研究が行われている。脳病変に幹細胞を到達させる方法として,末梢静脈からの幹細胞移植は侵襲が少ないが,直接脳内に移植する場合と比べて,脳への移行効率が劣る。そこで,移植細胞の脳への移行を向上させる目的で,アテロコラーゲンを用いた検討を行った。慢性アルコール曝露モデルラットを用いた検討において,移植に用いる神経幹細胞を,放射性同位元素([35S]-methionine)にて標識し,ラット尾静脈より移植後の脳内への移植細胞の移行性と脳内分布について調べた。移植40日後に脳組織を取り出し,皮質・海馬・線条体・側脳室下帯に分割後,各脳領域のホモジネートサンプルに含まれる放射活性を測定した。結果,アテロコラーゲンを添加した神経幹細胞を移植した場合に,アテロコラーゲンを用いない群と比較して,移植した細胞の脳内移行率がいずれの脳部位においても向上した。また,アテロコラーゲンがラット神経幹細胞に与える影響に関する,in vitroでの検討では,0.05%以下のアテロコラーゲン濃度で培養神経幹細胞の生存,増殖および遊走能に有意な影響を示さなかった。0.03から0.05%のアテロコラーゲンは,神経幹細胞の神経分化を減少させ,アストロサイトへの分化を増加させた。これらの結果から,中枢神経疾患に対する末梢静脈からの神経幹細胞投与による幹細胞治療において,0.03%未満のアテロコラーゲンは神経幹細胞の機能に影響を与えることなく,神経幹細胞の脳内への移行を向上させることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
計画した程度には,当該研究に時間を割くことができなかった。精神疾患と再生医療に関連した予備的研究として,アテロコラーゲンが末梢循環より移植した神経幹細胞の脳内移行率を向上させることを明らかにした。しかし,G-CSFを用いた検討には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与が精神疾患の病態を改善させる可能性について,コントロール群,FASD モデル群と,それぞれにG-CSF を投与した群の,計4 群を用意する。①コントロール群に対し,胎生期(胎生10-13 日)に1 日あたり6g/kg のアルコールを母体へ投与し出生した仔を,②FASD モデル群とする。次に,コントロールの生後1 ヶ月にG-CSF を投与した,③コントロール-G-CSF 群,および,病態モデルにG-CSF を投与した,④FASD-G-CSF 群をそれぞれ作成する。G-CSF 投与後1 ヶ月の時点で,以下の方法により,FASD の代表的な臨床症状である多動性と衝動性,社会性の障害を評価し,G-CSF 投与が精神疾患の症状におよぼす治療的な効果についての解析を実施する。 次に,G-CSF 投与により,循環血中に動員された造血幹細胞が脳内に移行するメカニズムを明らかにするために,骨髄細胞のみをGFP(+)細胞に入れ替えたラットを作製し,G-CSF 投与後の脳スライス切片を用いて脳内に移行したGFP(+)細胞を評価・検索する。FASD モデルラットを用いた申請者らのこれまでの検討で,コントロール群に比較して,病態モデル群では,末梢の静脈から注入した幹細胞がより多く脳内へ移行することがわかっている。今回の,骨髄から動因された造血幹細胞の脳移行についての検討でも同様の差異があるかどうか,FASD モデルラットを用いて確認していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
成体ラットの骨髄幹細胞に加え,種々の細胞培養条件を常時整えておく必要があり,細胞培養に多くの研究経費を見込む。また,G-CSF 投与実験では,病態モデル作成のために,複数の妊娠ラットと,コントロール群,コントロール+G-CSF 投与群,病態モデル群,病態モデル+G-CSF 投与群等に分けた多数のラットを用いて,G-CSF 投与後の行動薬理学的変化を長期に評価・観察する必要があり,実験動物の維持・管理にも多くの経費を見込んでいる。 消耗品として,細胞培養用材料・試薬費,免疫組織化学的解析用のプレート・抗体費,等を計上する。 旅費については,国内外の学会等でのデータ収集,および研究成果発表を年間数件程度予定している。また,謝金については,外国語論文の校閲の経費を見込んでいる。 当該年度の実支出額が所要額に達しなかったのは,研究計画に遅れを生じていることに由来する。
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