研究課題/領域番号 |
23591679
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
鵜飼 渉 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40381256)
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研究分担者 |
橋本 恵理 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30301401)
館農 勝 札幌医科大学, 医学部, 講師 (60464492)
吉永 敏弘 札幌医科大学, 医学部, 助教 (70404704)
金田 博雄 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (80581149)
安宅 弘司 札幌医科大学, 医学部, 助教 (30563358)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 社会認知機能 / 神経幹細胞 / 神経幹細胞移植 / 抗精神病薬 / 言語機能 |
研究概要 |
統合失調症では,幻覚・妄想などの陽性症状の問題に加え,注意,言語記憶,作業記憶,実行記憶,視覚・運動処理能力などの,幅広い"認知領域が障害"されており,これが,患者の職業的・社会的復帰の妨げになっていることが指摘されている。最近の臨床学的知見から,統合失調症の第2/3世代抗精神病薬は,第1世代の薬剤と比較して,"社会性機能障害"の改善効果が高いこと,また,個々の薬剤が認知機能障害の異なったプロフィールを改善することが報告されている。しかしながら,各治療薬がどのような機序で特定の認知機能障害に影響を及ぼし得るのかについてはまだほとんど解明が進んでいない。 これまでに我々は,胎児期にpoly (I:C)を処置することによって作成した統合失調症モデル動物を用いて,神経幹細胞の経静脈的移植が,モデル動物の認知・行動異常を改善する可能性について報告をしてきた。初年度は,統合失調症モデル動物の脳内において,各薬物が移植細胞をどのような神経フェノタイプに分化させるかについて,胎仔脳,および成体海馬由来神経幹細胞を用いたin vitro統合失調症病態モデル系を用いて比較解析を行った。 MK801による神経幹細胞の神経分化障害は,第2/3世代抗精神病薬の併用処置によって抑制されたことから,各薬剤の臨床での効果発現に,脳内の神経新生機能の活性化が何らかに関わっている可能性が推察された。また,調べたいずれの抗精神病薬も,成体海馬由来神経幹細胞のGABA系神経への分化障害を抑制する効果を示した。近年の報告から,統合失調症患者の脳における帯状回,扁桃体,海馬のGABA系インターニューロンの異常と社会性機能障害との関連が推察されている。これらの結果は,抗精神病薬による社会性機能の改善効果の発揮に,脳内のGABA系インターニューロンの修復が関係する可能性を示唆するものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,統合失調症治療における重要な問題である,職業的および社会的機能の回復について,言語記憶と心の理論の神経回路を調べる方法を確立し,それを修復・再生する新たな治療手段としての,薬物・ヒト細胞combined療法の可能性を検討・開発を進めることである。具体的には,(1)"言語記憶"と"共感性・心の理論"の神経回路を調べる方法を確立し,(2) それを修復・再生する新たな治療手段としての薬物・ヒト細胞併用療法の確立を目指す。本研究では,胎児期ストレス誘発統合失調症モデルラットを作成し,統合失調症治療薬とラット又はヒト骨髄由来間葉系幹細胞の経静脈的移植の併用療法を実施し,病態モデル動物の社会的認知・行動異常の変化と,それに関連する脳内メカニズム変化の解析を行う。初年度は,in vitroの病態モデル系を用いて,抗精神病薬による神経動態変化(特にGABA interneuronへの分化動態)の方向性について検討することができた。しかしながら,統合失調症治療薬が,言語記憶機能にどのようなメカニズムで影響を及ぼしているかについて,脳構造的に音声学習可能な鳥類を用いて,その機能と関連神経回路の変化解析を試みる計画であり,鳥類を用いての,(1) 治療薬投与による発声記憶機能変化の評価,(2) 言語記憶関連領域(腹側被蓋野・被殻・尾状核)での細胞・分子変動解析を含む,言語記憶を司る神経回路の変化の解析について,検討結果を得るまでに至らず,達成度は100%とはならなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後,まず,ヒトの発声学習の研究が可能な動物モデルとして,鳥類を用いて言語記憶機能変化の解析を実施する。具体的には,発達過程の若鳥(孵化後1ヶ月)にヒト言語による音声学習を実施し,学習音声の発声開始時期と頻度・量について録音・解析する。一部のモデルには学習開始時から第二世代抗精神病薬を投与し,発声記憶の獲得変化について,コントロール群との比較検討を行なう。 次に,以下の方法で,抗精神病薬処置による"言語記憶機能変化"と,関連する神経回路の変動を細胞生存・新生機能のレベルで解析する。すなわち,胎生期にpoly I:C(ウイルス感染をmimicさせる薬剤)を処置する方法で,統合失調症の(神経回路発達異常誘発型)モデルラットを作成する。コントロールおよびモデルラットに,ラット骨髄由来間葉系幹細胞を経静脈的に投与し,(1) 移植による行動異常の改善効果,(2)"共感性・心の理論"関連神経回路の修復・再生変化を評価する。 ヒトを含めた哺乳類と鳥類では,脳の基本構造は共通性が高く,遺伝子発現や神経回路レベルでの知見についてヒトに直接還元できると考えられている。連携研究者の岩本和也(東京大学)は,統合失調症や躁うつ病などの精神疾患の発症に関与する分子解析研究に長年携わっており,神経回路機能変化についての分子レベルでの解析に協力を頂く。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,成体ラットの骨髄由来間葉系幹細胞に加え,多数の妊娠ラットの胎仔脳由来など,複数のソースから神経幹細胞のもとを得て検討を実施していくため,複数の細胞培養条件を常時整えておく必要があり,細胞培養に多くの研究経費を見込んでいる。また,細胞移植実験では,コントロール群,コントロール+細胞移植群,コントロール+薬剤+細胞移植群,病態モデル群,病態モデル+細胞移植群,病態モデル+薬剤+細胞移植群,等に分けた多数のラットを用いて,移植後の行動薬理学的変化を長期に評価・観察する必要があり,実験動物の維持・管理にも多くの経費を見込んでいる。加えて,ヒト言語記憶機能を解析するための動物モデルとして,鳥類(インコ)を用いた検討を実施するが,その維持・管理にも通常の動物実験以上の経費を見込んでいる。消耗品としては,神経幹細胞培養用材料・試薬費,免疫組織化学的解析用のプレート・抗体費,等を計上する。旅費については,国内外の学会等でのデータ収集,および研究成果発表を数件程度予定している。また,謝金については,実験および実験データ解析に関わる補助員を不定期に1名程度予定している。 尚,鳥類を用いた実験の準備に遅れが生じ,それにかかる分の費用を翌年度に繰越すこととした。
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