平成23年度から27年度の5年間の研究において、薬物と薬物によらない(すなわち、薬理学的報酬と自然報酬)によるアディクション(依存)の共通基盤を検討した。そのため、依存の中核症状である欲求の構造を「物質の一次性強化効果」、「離脱症状の不快感」、「環境刺激の二次性強化効果」の三層構造から考えた場合、①離脱症状の不快感、②環境刺激の二次性強化効果が薬理学的報酬と自然報酬に共通しており、その神経学的機序として、脳内報酬系機能の低下、ドパミンD3受容体、セロトニン神経系の関与が考えられた。 以上のことから、平成28年度においては、当該研究の最終段階として、薬理学的報酬と自然報酬によるアディクションの治療薬としてどのような薬物が候補となるのかを検討した。実験系は、これまでと同様に、ラットを用いて、二つの区画からなる条件性場所嗜好実験において、報酬(メチルフェニデートと砂糖水)と区画の条件づけを行い、報酬に条件づけられた区画に嗜好性を示す動物を作成した。脳内報酬系機能を脳内自己刺激実験によって測定した。また、動物の衝動性は、“依存衝動のモデル(レバー・ホールディング課題)”を用いて評価した。この結果、D3受容体部分刺激薬BP897が、条件性場所嗜好実験における報酬と環境刺激の連合(条件づけ)の形成を阻害し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬のパロキセチンが“依存衝動のモデル(レバー・ホールディング課題)”における衝動性を軽減させた。このような所見は、メチルフェニデートと砂糖水の両者において認められたが、砂糖水による変化では対照群と比較的して有意な変化が認められなかった点で課題が残った。以上のことから、薬物と薬物によらないアディクションの治療薬開発の可能性が示唆されたが、さらなる検討が必要である。
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