研究課題
本年度の目的は、前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration; FTLD)をはじめとする認知症性変性疾患患者脳に異常蓄積した蛋白の性状および複合型蛋白蓄積による病態および臨床症状を明らかにすることである。 まず、発語失行で発症した進行性非流暢性失語(Progressive nonfluent aphasia: PNFA)の剖検例について詳細な免疫組織化学的検索を行った。PNFAの背景病理としては、これまでピック病、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症などのtauopathyの報告が多いが、本例では、リン酸化TDP-43が発語中枢である弁蓋部を中心に広汎に蓄積していることが判明した。以上から、TDP-43蓄積による発語中枢の神経細胞変性が、本例における非流暢性失語の原因であることが示唆された。 次いで、これまでtauの蓄積が主体と考えられてきた石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(Diffuse neurofibrillary tangles with calcification : DNTC) の10剖検例について、免疫組織化学的解析を行った。その結果、10例中8例にα-synuclein、6例にリン酸化TDP-43の蓄積が生じていることが明らかになった。特にリン酸化TDP-43が蓄積している例では、脱抑制が高度である傾向が認められた。以上から、DNTCは、tau、α-synuclein、TDP-43の複合型蛋白蓄積症と考えられること、またTDP-43の蓄積はDNTCの臨床像に影響を与えることが示唆された。 以上の検討から、蓄積蛋白の種類、質、程度、分布などが、認知症性変性疾患の病態および臨床症状を規定している可能性が示唆され、さらに症例数を増やした詳細な検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、認知症性変性疾患の蓄積蛋白の性状および複合型蛋白蓄積による病態および臨床症状を明らかにすることである。まず、発語失行で発症したPNFAの臨床病理学的解析から、リン酸化TDP-43の発語中枢への蓄積が非流暢性失語の原因となる可能性を明らかにした。次いで、これまでtauの蓄積が主体と考えられてきたDNTCについて詳細な免疫組織化学的検討を行い、本疾患がtau、α-synuclein、TDP-43の複合型蛋白蓄積症であること、およびリン酸化TDP-43蓄積が本疾患の脱抑制症状に影響している可能性について明らかにした。これらの解析は、我々が独自に作製した感度の高いリン酸化TDP-43特異抗体を用いた免疫組織化学染色を行ってはじめて可能となった。以上から、現時点で本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
認知症性神経変性疾患の臨床病理像と蓄積蛋白との関連性および複合型蛋白蓄積の病態について明らかにするため、FTLD、レビ-小体型認知症、アルツハイマー病などの剖検例を用いた臨床病理学的検討をさらに多数例について行うとともに、凍結脳から蓄積蛋白を抽出し、その生化学的性状についてもさらに解析を進める。 さらに、遺伝子改変マウスの解析にも着手し、蛋白質蓄積の機序および脳機能への影響について検討する。具体的には、ヒトでTDP-43蓄積をきたすことが判明しているグラニュリン遺伝子ノックアウトマウス、tauやTDP-43の過剰発現マウスなどである。
高感度の免疫組織化学染色用の凍結浮遊切片を作製するための冷却システムを購入する。それ以外は、抗体、染色試薬などの消耗品の購入に当てる。
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