研究課題
認知症性神経変性疾患患者脳に異常蓄積した蛋白質の性状および複合型蛋白蓄積による病態と臨床症状との関連性を明らかにするため、患者剖検脳を用いた病理生化学的解析を行った。本年度は特に、運動ニューロン障害を伴う前頭側頭葉型認知症について、下記のような新たな知見を得た。まず、前頭・側頭葉皮質にFUS陽性の変性神経突起が多発し、下位運動ニューロンにリン酸化TDP-43陽性の神経細胞内封入体が出現するという複合型蛋白蓄積例の存在を初めて明らかにした。通常FUSは神経細胞内に蓄積するが本例では神経突起内に蓄積している点も非定型的である。この解析結果は、これまで指摘されていなかったFUSとTDP-43の複合型蓄積による運動ニューロン障害を伴う前頭側頭葉型認知症の発症、およびFUSの細胞内蓄積分布の多様性について初めて明らかにした点で意義が深い。さらに、運動ニューロン障害を伴う前頭側頭葉型認知症例において非流暢性失語を呈する例が存在すること、その際の病理像はリン酸化TDP-43の神経細胞質内蓄積であり、失語を伴わない例と共通であること、言語中枢におけるリン酸化TDP-43蓄積の程度の違いがその背景である可能性があることなどを明らかにした。以上から、蓄積蛋白質の複合のパターンおよび蛋白の蓄積部位が、認知症性神経変性疾患の臨床病型形成に影響している可能性が示唆され、さらに症例を重ねて検討する必要があると思われた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、複合型蛋白蓄積および蓄積蛋白の性状と認知症性神経変性疾患の病態および臨床症状との関連を明らかにすることである。平成23年度は、進行性非流暢性失語におけるリン酸化TDP-43の発語中枢への蓄積の意義、石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病におけるtau、α-synuclein、TDP-43の複合型蓄積とリン酸化TDP-43の脱抑制症状への関与を明らかにした。平成24年度は、運動ニューロン障害を伴う前頭側頭葉型認知症について病理生化学的解析を行い、前頭・側頭葉にがFUS蓄積し、かつ下位運動ニューロンにリン酸化TDP-43が蓄積するという新たな複合型蛋白蓄積による病態が存在することを初めて明らかにした。さらに、リン酸化TDP-43の蓄積が認められる運動ニューロン障害を伴う前頭側頭葉型認知症において、進行性非流暢性失語を呈する例があることを明らかにした。このように、神経変性を誘導する鍵分子の蓄積形態、分布、複合のパターンと臨床像に関する新たな知見を多数見出しており、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
これまでの2年間の研究により、主としてTDP-43およびFUSの蓄積形態や分布とその臨床病理像との関連性を明らかにしてきた。本年度は、TDP-43およびFUSに加え、神経変性を誘導する重要な分子であるtauおよびα-synucleinの蓄積形態および分布と臨床病理像との関連性について、剖検脳を用いた病理生化学的検討を加え、認知症性神経変性疾患の臨床病理像と蓄積蛋白との関連性および複合型蛋白蓄積の病態についてさらに明らかにする。また、次年度は本研究の最終年度であり、それまでの解析結果を総合し、tau、α-synuclein、TDP-43、FUSという神経変性の鍵分子の複合型異常蓄積という視点を基本とし、従来の疾患分類との対応を比較検討し、整理する。
該当なし
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 5件) 図書 (1件)
Neurobiol Dis
巻: 45 ページ: 188-195
Neuropathology
巻: 32 ページ: 272-279
Schizophr Res
巻: 134 ページ: 137-142
Brain
巻: 135 ページ: 3380-3391
PLoS ONE
巻: 7 ページ: e52389
老年精神医学雑誌
巻: 23 ページ: 1121-1127
巻: 23 ページ: 353-358
老年期認知症研究会誌
巻: 19 ページ: 60-62
Dementia Japan
巻: 26 ページ: 334-342
Medicament News
巻: 2090 ページ: 4-5