研究課題/領域番号 |
23591699
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
天野 直二 信州大学, 医学部, 教授 (10145691)
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研究分担者 |
萩原 徹也 信州大学, 医学部, 助教 (00436891)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 老年精神医学 / 重症うつ病 / カタトニア |
研究概要 |
高齢者のカタトニア症候群は臨床現場では見落とされがちであり、治療に難渋する事例が少なくないこと、従来の診断学上のカタトニアの位置付けは実態と乖離したものであり、診断学上の曖昧さが指摘されていることから、臨床的症状と生物学的要因の両面から検討を行っている。 平成23年度は主として対象症例の臨床的特徴についての整理を行った。現時点での対象症例は、2006年4月から2012年3月の6年間に信州大学医学部附属病院精神科病棟にてカタトニア症候群を呈した50歳以上の症例であり、実人数は54例(男性 18例,女性 36例)である。症例を大別すると、初老期以降に初発した急性カタトニア症候群、若年時より反復するカタトニア症候群、解離性昏迷、悪性症候群、分類困難例の5群に分類された。症状は昏迷・亜昏迷が大多数を占め、カタトニアに特有の症状の双極構造や激越は若年者に比べて目立たなかった。カタトニアのエピソードを短期間に反復する症例が多く、身体合併症を生ずる頻度が高く、ADL低下をきたしがちで予後は決して良好ではなかった。カタトニア症状および随伴する諸症状は多彩で浮動的であったが、その経過には共通のパターンがあり、類型として把握可能であったため、形式的特徴を整理し図式化を試みた。その概要については、第34回日本精神病理・精神療法学会の「初老期以降のカタトニア症候群(遅発緊張病)をめぐって」と題するパネルディスカッション(研究分担者の萩原が企画)において報告した。 同時に、修正型電気けいれん療法(mECT)と薬物療法の比較のための基礎データの収集を行い、脳波や頭部画像検査が可能な症例については施行している。また、症例は高齢の女性に多いことから、閉経期に変化するステロイドに着目し、現在いくつかのホルモンに関して予備的検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の計画は症例の登録と臨床的データ収集、予備的検討が主体であったが、これらの作業は順調に進展している。目標症例数は当初40例であったが、現時点までに54例の症例を登録している。ただし、対象症例の基準に関しては、対象年齢を「60歳以上」から「50歳以上」に引き下げた。これは、若年者も含めた全入院事例に関する予備的検討によって、50歳以上のカタトニア症候群も高齢者と同じ特徴をもつことが明らかとなり、初老期以降に初発した群は臨床的に共通性が大きいことが認められたためである。 登録した症例に関しては、症状の諸特性・病歴などの臨床的データを収集・整理している。その結果として、カタトニア症候群を把握する上での操作的診断基準(DSM-IV-TR、ICD-10)の問題点と適用上注意すべき点が明らかになった。治療効果に関しても、mECTと種々の薬物療法の比較のためのデータの収集が進行している。これは治療法の相違による再発予防効果の差について検討するための基礎的データである。他方、脳波や頭部画像検査(MRI、SPECT、NIRSなど)については、症状の激しさゆえに施行可能な症例は限られていた。検査可能な症例に関しては施行しているが、現時点では特異的な所見は得られていない。研究開始後に得られた知見に基づき、当初の研究計画に関して細部を見直す必要性が生じたが、修正の結果、所期の目的により近づくことが可能な研究計画となった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き経過中の臨床的データの収集を行う。再発例については、維持療法の内容について詳細に検討する。薬物療法に関しては、高齢者に適したベンゾジアゼピン系薬物の投与法について副作用を踏まえて検討する。メインテナンスECTに関してもその適切な頻度・回数などに関して検討する。長期予後と神経変性疾患(アルツハイマー病、非アルツハイマー型認知症など)との関連性についても検討する。さらに、近年の知見を踏まえると、高齢者のカタトニア症候群においては初老期に変化するステロイドホルモンの関与の可能性が考えられるため、平成23年度には予備的考察として、いくつかのホルモンに関する定量的評価を行った。これらのステロイドに関する検討も継続的に進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
臨床データ収集が進行し、研究の一部に関しては報告のための準備を進めている段階である。今後は物品購入費、データの整理に関わる人件費、出張経費、結果報告に要する予算を順次執行していく予定である。平成23年度は当初の見込みと異なり、人件費を要する作業がなく、購入物品や出張も少なかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、主にステロイドホルモンの濃度測定に係わる費用に充当する予定である。予算の許す限りにおいて、ホルモン濃度測定を行う症例数を増やすことを計画している。
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