研究課題/領域番号 |
23591699
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
天野 直二 信州大学, 医学部, 教授 (10145691)
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研究分担者 |
萩原 徹也 信州大学, 医学部, 助教 (00436891)
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キーワード | カタトニア症候群 / 初老期・老年期 / 精神病理学 / 女性ホルモン |
研究概要 |
高齢者のカタトニア症候群は臨床現場では見落とされがちであり、治療に難渋する事例が少なくないこと、従来の診断学上のカタトニアの位置付けは実態と乖離したものであり、診断学上の曖昧さが指摘されていることから、臨床的症状と生物学的要因の両面から検討を行っている。24年度は臨床的データの集計を進め、そこから抽出された症候学的な類型の妥当性を検証した。 対象症例は、2006年4月から2013年3月の7年間に信州大学医学部附属病院精神科病棟にてカタトニア症候群を呈した50歳以上の症例であり、実人数は58例(男性 18例,女性 40例)である。症例を大別すると、初老期以降に初発した急性カタトニア症候群、若年時より反復するカタトニア症候群、解離性昏迷、悪性症候群、分類困難例の5群に分類された。大多数を占める急性カタトニア症候群には経過上共通する特徴がみられたため、症候学的整理を試み、単一エピソードの経過類型を図式化して整理した。この図式を臨床の場で適用すると、カタトニアの出現を予測したり、回復期の症状を評価して適切な治療方針を立てたりする上でも有用であった。 カタトニアの症候学的意義については不明な点が多いが、臨床的特性の分析からは、種々の病態を貫くひとつの表現型として把握し得るように思われた。すなわち、様々な病態における精神病症状が重症化すると、共通の表現型としてカタトニア症候群を呈する可能性があると考えられ、悪化の過程と回復の過程で一連の病像の出現する順序が逆転する傾向は、それぞれの病像が層的な構造をなすことを示唆すると思われた。 同時に、修正型電気けいれん療法(mECT)と薬物療法の比較のためのデータ収集を行い、脳波や頭部画像検査についても検討した。また、症例は高齢の女性に多いことから、女性ホルモンに関しても予備的検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時の目標症例数は40例であったが、最終的に58例の症例を登録することができた。登録した症例に関して収集した症候学的なデータの解析はほぼ終了している。現在は文献的な検討と、報告の準備を進めている。研究開始後に得られた知見に基づき、当初の研究計画に関して細部を見直す必要性が生じたため、女性ホルモンの変化に注目する形で計画を修正した。修正の結果、所期の目的により近づくことが可能な研究計画となった。 平成23年には、研究分担者の萩原徹也の企画立案により、日本精神病理・精神療法学会第34回大会において「初老期以降のカタトニア症候群(遅発緊張病)をめぐって」と題するパネルディスカッションが行われ、その場で萩原より研究の概要が発表された。平成24年度の計画は臨床的データの集計とそこから抽出された症候学的な類型の臨床的妥当性の検証であったが、検証作業を終了し、有用な経過類型を明確に図式化することができた。作業を通じて、カタトニア症候群を把握する上での従来の操作的診断基準(DSM-IV-TR、ICD-10)の問題点と適用上注意すべき点が明らかになったが、平成25年に改訂版が出版されたDSM-5や、現在改定作業中のICD-11の草案においても根本的な改善はみられていないため、ICD-11草案に関しては提言を行うことを計画している。 治療効果に関しても、mECTと種々の薬物療法の比較のためのデータの収集・分析を進めていたが、治療効果の判定は困難であり、現在までのところ新たな知見は得られていないため、収集したデータをもとにして、長期予後への影響を調査する方向で計画を再検討している。脳波や頭部画像検査(MRI、SPECT、NIRSなど)については、症状の激しさゆえに施行可能な症例が少なく、施行した症例中には特異的な所見は得られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に向けて、初老期に変化するいくつかのステロイドホルモンの定量的評価を継続し、これらのステロイドに関する検討を進めていく。 臨床的データについての集計は終わっているが、登録症例の追跡調査を行い、再発例については、維持療法の内容について詳細に検討する。薬物療法に関しては、高齢者に適したベンゾジアゼピン系薬物の投与法について副作用を踏まえて検討する。メンテナンスECTに関してもその適切な頻度・回数などに関して検討する。長期予後と神経変性疾患(アルツハイマー病、非アルツハイマー型認知症など)との関連性についても検討する。 精神病理学的な経過類型論については、一通りの検討を終了したため、現在報告の準備を進めている段階である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ステロイドホルモンの定量的な評価のための費用やデータの整理に関わる人件費、出張経費、結果報告に要する予算を順次執行していく予定である。平成24年度は当初の見込みと異なり、人件費を要する作業がなく、購入物品や出張も少なかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、主にステロイドホルモンの濃度測定に係わる費用に充当する予定である。予算の許す限りにおいて、ホルモン濃度測定を行う症例数を増やすことを計画している。
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