研究課題/領域番号 |
23591699
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
天野 直二 信州大学, 医学部, 教授 (10145691)
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研究分担者 |
萩原 徹也 信州大学, 医学部, 助教 (00436891)
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キーワード | カタトニア症候群 / 初老期・老年期 / 精神病理学 / 修正型電気けいれん療法 / 薬物療法 |
研究概要 |
高齢者のカタトニア症候群は診断学上の位置付けが曖昧であり、診療に難渋する事例が少なくないことから、症候学的および病因論的見地から検討を行った。25年度も24年度に引き続き臨床的データの集計を進め、そこから抽出された症候学的な類型の妥当性を検証した。年度途中で診断基準の改訂がありカタトニアの診断基準が明記されたことから、一部の症例を研究対象から除外する方針となった。多くの症例に共通する特徴を見出すという研究の目的上、症例数を増やす必要が生じたため、エントリー期間を2014年3月まで延長し、現在最終的な集計作業を開始している。 症例を大別すると、初老期以降に初発した急性カタトニア症候群、慢性期統合失調症に伴って若年時より反復するカタトニア症候群、解離性昏迷、悪性症候群、分類困難例の5群に分類された。大多数を占める急性カタトニア症候群には経過上共通する特徴がみられたため、経過類型を図式化して整理した。この図式を臨床の場で適用すると、カタトニアの出現を予測したり、回復期の症状を評価して適切な治療方針を立てたりする上でも有用であった。臨床的特性の分析を踏まえると、カタトニア症候群は種々の病態を貫くひとつの表現型であり、層的な構造をなすことが示唆された。 同時に、修正型電気けいれん療法(mECT)と薬物療法の比較のためのデータ収集を行った。ECTの有効性が比較的高いこと、軽症例に対してはベンゾジアゼピン系薬物を高用量で投与すると有効であることが示唆されたが、他の薬物の効果や有害事象は明確には捉えられなかった。脳波や頭部画像検査についても検討したが、基盤となる異常所見は認められなかった。女性ホルモンの定量的検討も継続しており、今後集計の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始後よりカタトニア症候群の経過に関して様々な知見が得られていたが、その結果として当初の研究計画の細部を見直すことが必要となった。修正の結果、所期の目的により近づくことが可能な研究計画となった。さらに、2013年のDSMの改訂においてカタトニアの診断基準が明記されたことから、DSMに準拠して一部の症例を研究対象から外す方針となった。症例が不足していたため、エントリー期間を延長して症例数を増やす必要が生じ、新たにデータの解析を行ったため、当初の予定より遅れを生じた。現在は新たに登録した症例に関してのデータを検討しつつ、最終的な報告の準備を進めている。 治療効果に関しても、mECTと種々の薬物療法の比較のためのデータの収集・分析を進めていたが、治療効果の判定は困難であり、現在までのところ新たな知見は得られていないため、収集したデータをもとにして、長期予後への影響を調査する方向で計画を再検討し ている。脳波や頭部画像検査(MRI、SPECT、NIRSなど)については、症状の激しさゆえに施行可能な症例が少なく、施行した症例中には特異的な所見は得られなかった。ステロイドホルモンに関しては結果の解釈の難しさもあり、生物学的な要因については全てのデータを踏まえた総合的な解釈が必要と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初老期に変化するいくつかのステロイドホルモンの定量的評価を終了し、女性ホルモンの関与に関して検討を進めていく。 集計した臨床的データについては、登録症例の追跡調査を行い、再発例については維持療法の内容について詳細に検討する。薬物療法に関しては、高齢者に適したベンゾジアゼピン系薬物の具体的な投与法について、副作用をも踏まえて検討する。メンテナンスECTに関してもその適切な頻度・回数などに関して検討する。長期予後と神経変性疾患(アルツハイマー病、非アルツハイマー型認知症など)との関連性についても検討する。 カタトニア症候群の経過類型など精神症候学的な特徴については、最終的な報告に向けて準備している。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画より研究の実施が遅れたことにより、次年度使用額が生じている。 データ収集に要する費用として、唾液中のステロイドホルモン濃度の測定に要する費用が今後も発生する見通しである。それ以外の大半の使途はデータ解析と発表準備に要する費用である。データ解析に関するソフトウェアの購入やデータ整理に関わる人件費、消耗品購入費、資料収集に要する費用、学会発表の際の出張費用、論文の原稿作成と投稿に関わる諸費用などを順次執行していく予定である。 これらの費用として、残額と26年度経費をあわせて使用する計画である。
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