高齢者のカタトニア症候群に関して、平成26年度までに収集された臨床的データの集計を進め、そこから抽出された症候学的な類型の妥当性を検証した。カタトニアを呈するうつ病においては、意欲低下・抑うつ気分・制止などを主症状とする大うつ病像からカタトニアに移行する事例はまれであり、焦燥や奇妙な幻覚妄想を伴う精神病性うつ病からの移行が大多数を占めた。急性カタトニア症候群には経過上共通する特徴がみられ、1)抑うつ、2)不安・焦燥、3)幻覚・妄想、4)緊張病症候群という順序で病像が変遷していた。さらに、従来言及されることの少なかった回復過程に注目すると、悪化の過程を逆に辿って回復する傾向が認められた。近年のカタトニア研究のほとんどはカタトニアの症状のみに焦点を当てているが、カタトニア症候群は上記の一連の過程の中で出現するものであり、横断面の病像のみでは捉え難い性質をもつと考えられる。個々の事例の症状は多彩で浮動的であったが、多数の症例を集積すると経過に共通のパターンが認められたため、経過類型を図式化して整理した。この図式を臨床の場で適用すると、カタトニアの出現を予測したり、回復期の症状を評価して適切な治療方針を立てたりする上でも有用であった。臨床的特性の分析を踏まえると、カタトニア症候群は種々の病態を貫くひとつの表現型であり、層的な構造をなすことが示唆された。 修正型電気けいれん療法(ECT)と薬物療法を比較すると、ECTの有効性が比較的高いこと、軽症例に対してはベンゾジアゼピン系薬物を高用量で投与すると有効であることが示唆されたが、他の薬物の効果や有害事象は明確には捉えられなかった。脳波や頭部画像検査、女性ホルモンの定量なども行ったが、病因に関連する可能性のある異常所見を見出すことはできなかった。 本研究の成果については、現在論文として投稿準備中である。
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