研究課題/領域番号 |
23591701
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
入谷 修司 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60191904)
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キーワード | 統合失調症 / 死後脳 / 神経病理 |
研究概要 |
本年度の研究事項は、1)統合失調症のモデル動物であるDISC1ノックアウト(以下KO)マウスの脳皮質におけるドーパミン神経線維の組織病理学的検討、2)同モデル動物のGABA神経系の組織病理学的検討、3)統合失調症死後脳白質のグリア細胞の発現の検討である。 実績として、1)DISC1KOマウスのモデル動物の皮質におけるドーパミン神経の指標のTH陽性線維は、線維の有意に短小化がみられ、前頭葉皮質におけるHypofrontalityを組織上で確認できた。現在、さらに詳細に顕微鏡下の可視情報を統計学的な検討をおこない報告準備をおこなっている。 2)DISC1KOマウスにおいて、GABA神経系の発達に関して検討をおこなった。GABA神経系指標であるCalbindinD28Kdについて、免疫組織学的技法を用いて大脳前頭葉皮質において分布様式を検討した。その結果、GABA神経系は、DISC1KOマウス脳皮質においては、陽性細胞の発現が減少していた。GABA神経系の発現低下(CalbindinD28Kd陽性細胞の発現低下)がみられたことは、DISC1の機能不全がGABA神経系の機能不全(発現不全)介して神経回路の形成不全をきたしていることを明確にした。以上の動物モデルで得られた結果を、統合失調症死後脳においても、同様に免疫組織学的技術を用いてTH、CalbindinD28Kdの発現を観察した。ヒト死後脳の場合はその組織に影響をあたえるagonal factorの要素の評価が必要であることが明確になった。次の検討課題として脳サンプルの組織差異に関しての検討課題があげられた。 3)統合失調症死後脳での白質の検討ついて、免疫組織学的技法でミエリン神経の特異的タンパク(MOG、Nogo-A)を染色し、良好な染色性を得ることができた。現在この疾患の脳組織上でのミエリンの発現様式を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子改変疾病モデル動物とくにDISC1ノックアウトマウスの前頭葉皮質における神経病理学的な神経ネットワークの変化について検索した。その結果、THを指標にしてドーパミン神経系の機能不全を示唆する観察結果が得られた。このことは、モデル動物における組織上のhypofrontalityを示していると考えられた。これは、臨床上で言われているこの疾患の前頭葉機能(高次神経機能)の障害が可視化できたとも考えられる。現在、詳細に画像処理をおこない可視情報の数値化のうえ検定検証し、論文作成中である。また、神経回路などの形成に深く関わっているCalbindinD28Kdを指標にしてGABA神経系の発現に関して観察し、動物モデルの皮質での発現の低下を見いだした。今後、統計学的な処理のもとで可視化情報の有意検定をおこない発現低下を評価し、報告(論文化)を進める予定である。GABA神経系は、神経発達において重要な要素であることがいわれており、DISC1の機能不全が、GABA神経系を介していることが示すことが新たに分かった。モデル動物を背景に、ヒト死後脳においても、大脳皮質において免疫組織学的技法を用いてTH、CalbindinD28Kdに対する染色をおこなった。動物モデルの染色とちがい、死後脳の場合はagonal factorなどの組織の条件性で発現が変わるため症例ごとの比較検討には慎重な精査が必要なことが明らかになった。このことを検証するために、ヒト死後脳の組織の条件・状態をととのえて染色法などを検証する必要があることが分かった。 また統合失調症死後脳における白質のグリア細胞を検索するためにMOG、NaGo-Aなどミエリン特異的タンパク染色をおこない、十分正常脳と比較検討できる染色標本が得られ(疾患死後脳10例、対象死後脳9例)、今後顕微鏡観察解析をすすめているところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に引き続き、平成25年度においては、遺伝子改変モデル動物脳におけるドーパミン神経系、GABA神経系の神経病理学的な観察をさらに続け可視化された情報を数値化して統計学的有意な所見を検証し、報告(論文化)をすすめていく。また、同時にその動物モデルの検証を背景にしてヒト死後脳の検証もすすめていく。具体的には、動物モデルの所見を参考にしてヒト死後脳でも同様な方法を用いて、TH、CalbindinD28Kdの有意な所見を追求する。ヒト死後脳の場合は、動物モデルと違い脳組織の個体差が大きいため、単純に比較は困難であることが明確になったため、それを克服するために可能な限り症例を厳選して、疾患特性の変化を見いだしていく予定。 統合失調症死後脳のグリア細胞の発現に関して、MOG, NaGo-Aなどのミエリン特異的タンパクについては、すでに比較観察染色性が死後脳標本で確認できているので、観察検証をすすめ顕微鏡のミクロレベルの白質の組織上の形態学的な病態について検証する。これは従前から我々が脳標本のマクロ観察で報告してきたように、統合失調症の白質の加齢にともなう脆弱性の病態をミクロレベルにおける現象の検証をすすめていく予定。
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次年度の研究費の使用計画 |
組織染色のための試薬、実験器具など消耗品で消費する予定
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