研究概要 |
神経変性疾患と機能性精神疾患では異なる治療,リハビリ,ケアが必要である.しかし高齢者においてこの鑑別はしばしば容易ではない.これを踏まえて,本研究の目的は老年期統合失調症と他の老年期精神障害患者の脳組織における変性疾患の病変の頻度を検討し,高齢者の精神疾患の診断の精度向上と治療方針決定に有用な臨床病理学的知見を得る事とした.平成25年度では40歳以降発症の精神病性障害患者(LOSD)と外部施設から提供された年齢をマッチさせた対照群71例の病理学的解析を終了し検討を行った.その結果LOSD患者は同年代の健常者とは異なる病理背景を有していることが明らかとなった.LOSD例(対正常対照群)においてレビー小体病(LBD)は26.1 %(11.3 %), 嗜銀顆粒病(AGD)は21.7 %(8.5 %),皮質基底核変性症(CBD)は4.3 %(0.0 %)であった.病理学的にアルツハイマー病(AD)の診断基準を満たす例はなかった.LOSD群のLBD,AGD,CBDの合計頻度は正常対照群より有意に高かった.AGDの重症度はLOSD群において正常対照群より有意に高度であった.65歳以上発症のLOSD症例ではLBDは36.4 %(19.4 %),嗜銀顆粒病は36.4 %(8.3 %)で,AGDは年齢をマッチさせた正常対照群より有意に高頻度であった.65歳未満発症のLOSDではLBD,AGD,CBDの頻度は16.7%,8.3%,8.3 %で,これらは正常対照群よりやや高いが統計学的には有意差がなかった(10.2%,5.1%,0.0 %).以上から,タウ蛋白の異常蓄積を特徴とする神経変性疾患であるAGDは65歳以上で初発するLOSDと関係する事を示唆しており,これは高齢発症の精神病性障害患者の予後予測,薬物治療,ケア,リハビリの方針決定において考慮されるべきと思われた.
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