研究課題
我々は、被虐待児の末梢組織由来細胞を用いて、発達障害児、健常対照児との比較により、虐待などの人生早期のストレスによるエピジェネティック変化を検出することを計画している。対象として長崎県内の5施設で構築している「長崎県子どもの心診療拠点病院ネットワーク」により、被虐待児、発達障害児のケースを集積する。すでに長崎大学ヒトゲノム倫理委員会に申請を行い、研究の承認を得ている。当初の予定では、末梢血からリンパ球を分離精製し、リンパ芽球様細胞株を樹立し、それを解析する予定であったが、不死化の際のDNAメチル化の変化が無視できないレベルと考えられたため、研究計画を変更し、末梢血由来のDNAをサンプルとして使用することとした。昨年度、3名の被虐待児と3名の発達障害児について臨床評価を行ったが、被虐待児1名からは親権者による同意の撤回があった。今年度は性と年齢をマッチした被虐待児、発達障害児2組(17歳女性、15歳男性)の末梢血由来のDNAに対して、マイクロアレイにより全ゲノムを網羅したDNAメチル化解析を行った。今後その差異についての詳細な検討を行い、他の被虐待児、発達障害児と、健常対照児に対しても、同様のDNAメチル化の差異がみられるかどうかを検討する予定である。また今年度は、「被虐待児と発達障害児の生物学的関係、特にエピジェネティクスについて」というテーマで、第108回日本精神神経学会学術総会でシンポジウムを企画し、本研究についての現状の報告を行った。また徳島大学との共同研究で、末梢血由来のDNAサンプルを用いた、統合失調症一卵性双生児不一致例のDNAメチル化の差異についての検討を行い、その結果を報告した。
3: やや遅れている
対象者やその代諾者から同意を得ることが困難であった。本年度は一名の同意の撤回があった。
長崎県では、長崎大学病院(精神科、小児科)、長崎県立こども医療福祉センター(小児科)、長崎県立精神医療センター(精神科)、医療法人カメリア 大村共立病院(精神科)、長崎県子ども・女性・障害者支援センター(児童相談所)の5施設で「長崎県子どもの心診療拠点病院ネットワーク」を構築しているが、本年度はこのネットワークで頻回に会議を開き、症例集積に努める予定である。また説明文書も比較的理解しやすい内容に変更している。
昨年度残金:直接経費2,727円については、最終年度成果発表費用に充当する予定である。
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Neuromolecular Med
巻: Mar;15(1) ページ: 95-101
doi: 10.1007/s12017-012-8198-6.