本研究では、乱用開始後1年以内の有機溶剤乱用初期の患者を対象とし、乱用初期の脳の障害を明らかにすることを目的とした。また、有機溶剤への依存を形成するメカニズムを明らかにするための認知課題、及び画像解析の手法について研究開発を行った。 患者を対象に脳血流画像検査として123I-IMP SPECTを、有機溶剤による白質の線維連絡障害を評価するために拡散強調画像(Diffusion Tensor Image:DTI)の撮像を施行予定で、併せてWAIS-III、WMS-R、WCSTの神経心理学検査と精神症状評価をおこない、これらの検査結果を総合的に解析することとした。しかしながら、乱用開始後1年以内の患者のリクルートが困難だったため、中期以降の乱用者についても対象者に繰り入れ、中期以降の乱用者一例に対して123I-IMP SPECTと各種神経心理検査を施行し、前頭葉の血流低下と前頭葉機能の低下がみられた。本症例については、学会発表を行い、論文発表を予定している。 有機溶剤への依存を形成するメカニズムに、目先の報酬を求めてしまう衝動性と損失に対する反応性が低下していることが関与していると考え、それを明らかにすることが可能な課題を作成し、課題遂行中の脳活動を健常者において機能的MRIを用いて測定した。また、過去の行動と現在の報酬を関係づける機能についても課題を開発し、健常者を対象にデータ収集を行った。併せてWAIS-III、CANTABによる認知機能データを収集し、課題の妥当性について検証した。今後、これら課題を用いて有機溶剤乱用患者における脳障害と乱用の持続に関わる神経メカニズムの解明が期待される。また、これら報酬系の基盤となる脳領域と想定される線条体と前頭葉の結合線維をDTIを用いて明らかにすることができる手法を開発した。これにより有機溶剤による白質線維連絡の障害が評価できると期待される。
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