サクセスフル・エイジングの前提として、向老意識(自分の老いに対する主観的意識)と老後への準備行動(老後の困難に備えて中年期から始める客観的準備行動)に焦点を当てて、地域での生活を続ける統合失調症者57名(平均57.6±8.7歳、中央値59.0歳)を対象に2008年から2012年まで横断的に検討し、以下の結果を得た。 ①先行研究と比較すると、向老意識は、健常者に比べて全体的に肯定的で、特に医療・福祉・経済について高く、楽観的であった。②老後への準備行動については、先行研究に比べ、全体的には健常者と比べてやや乏しかったが、特に、家族関係、経済面での準備行動が乏しかった。③臨床的な因子との関連をみたところ、「QOLが高いほど、向老意識は肯定的であるが、準備行動は少ない」など健常者と逆の結果を認めた。④過去の諸因子との関連を検討したところ、高いQOLは肯定的な向老意識と関連し、長い入院期間は乏しい準備行動に関連していた。⑤4年間で、向老意識・QOL・社会機能は変化しないが、老後への準備行動は活発になっていた。 地域社会を送る向老期統合失調症者において、準備行動が活発となってきたのは、福祉や支援の成果による部分もあるであろうが、地域生活の中で年齢を重ねることで社会的スキルが向上し、将来に備えて積極的に対処し始めた可能性も示唆された。高齢化する精神病者におけるサクセスフル・エイジングの実現には、精神症状のコントロール、社会機能の維持、QOLの改善のみならず、老いに備えた行動も必要と考えられる。そのような行動を内発的に引き起こすような心理社会的な性格傾向はいかなるものなのか、あるいは、そのような行動を引き出すための支援の方策はあるのかを、ポジティブ心理学の視点も取り入れつつ、今後引き続き検討していく。
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