研究概要 |
本研究では,統合失調症患者を対象とした退院支援プログラム(情報の提供と共有およびソーシャルスキルトレーニング,週1回60分×8週)を作成し,その効果についての検討を行った。プログラムの前後において,機能の全般的評定(Global Assessment of Functioning Scale, GAF)、病識評価尺度 (Schedule for Assessment of Insight, SAI-J)、薬に対する構えの調査表 (Drug Attitude Inventory, DAI-10)、一般用自己効力感尺度(General Self-Efficacy Scale, GSES)、統合失調症認知評価尺度(Schizophrenia Cognition Rating Scale日本語版, SCoRS-J)を用いて測定した。さらに、複数の神経心理学的検査を用いて認知機能を測定し、プログラムの効果に影響する要因を検討した。対象は精神科病院の亜急性期病棟入院中で、本研究に同意した統合失調症患者(ICD-10 F20)91名(男性45名、女性46名、平均年齢43.2歳)であった。PANSS総合得点87.8±25.9、JART得点98.7±12.2であった。また、プログラム前後におけるcp換算量に有意差はなかった(p=0.408)。プログラムによって、GAF(p <0.001)、SAI-J(p <0.001)、DAI-10(p <0.001)に改善がみられた。また、全般的機能の改善には、実行機能としてのWCSTのエラー総(p=0.043)/保続エラー(p=0.009)と、ワーキングメモリとしての数唱における逆唱(p=0.067)が関係している可能性が示唆された。これらの認知機能的特徴からは,プログラムによって全般的機能が改善しない患者において、自分なりの考え方に固辞したり、他の選択肢があることにうまく気付くことができないといった情報処理の問題がある可能性が推測された。今後は、この結果を踏まえたプログラムの施行継続と、その長期的効果の検証やプログラムの改良が重要な課題であると考える。
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