研究概要 |
2011年3月に発生した東日本大震災の津波により崩壊した病院の職員82名を対象として、災害死別体験による外傷性悲嘆症状、PTSD関連症状、抑うつ症状の関連を調査した。3症状はそれぞれ重なりあってはいたが、探索的因子分析の結果から、外傷性悲嘆症状はPTSD関連症状や抑うつ症状とは独立した因子として抽出された。したがって被災後にはPTSD関連症状や抑うつ症状だけでなく、外傷性悲嘆症状を適切に評価し、支援やケアを提供することの必要性が示唆された。この結果は国際学会で発表するとともに国際誌にも論文発表した(Tsutsui et al, 2014)。 暴力的死別体験後の外傷性悲嘆に対するトラウマ・悲嘆焦点化認知行動療法である「外傷性悲嘆治療プログラム」の有用性については、本研究初年度に国際誌に報告したところである(Asukai et al, 2011)。さらに有用性の検証を進めるため、昨年度に引き続き本年度は新たに4例がエントリーし、研究代表者のスーパービジョンの下にプログラムを実施した。内訳は交通事故でそれぞれ息子、娘、夫を亡くした女性、自殺で母親を亡くした女性である。昨年度から引き続き、プログラムからの脱落者はなく、プログラム実施前後で症状の改善傾向を認めた。またプログラム後には社会復帰上もおおむね良好な転帰を認めることができた。以上より「外傷性悲嘆治療プログラム」は実施方法に関する研修と、セッションのビデオや録音による毎週の症例スーパビジョンの下で、安全に実施することができ、また効果を期待できることが確かめられた。
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