研究課題/領域番号 |
23591752
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
百瀬 敏光 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (20219992)
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研究分担者 |
関野 正樹 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20401036)
小島 良紀 独立行政法人国立がん研究センター, その他部局等, その他 (20167357)
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キーワード | microPET / MRI / 小動物 / 脳解剖 / FDG / 糖代謝 / 脳機能 / fusion |
研究概要 |
小動物用高分解能PET装置は、生体内の特定の標的となる分子構造を認識できるよう設計されたポジトロン標識化合物を用い、その体内挙動をダイナミックに可視化し、定量評価するための装置である。現在、疾患モデルマウスなどを用いた疾患の病態解明や創薬などの重要なツールとして期待されている。分子標的診断法を中枢神経疾患モデルマウスに応用するためには、詳細な脳構造の解剖学的情報を基盤にした解析システムの構築が不可欠である。そのためには高分解能で軟部組織のコントラストに優れた高磁場MRIによる形態画像の利用が最も適している。我々は、これまで、PETとMRIに共通したアクリル製マウス用頭部固定装置の開発を行い、頭部固定器具によるPETとMRIによる位置合わせが高い精度で行えることを検証した。また、F-18標識フルオロデオキシグルコース(FDG)を用いたマウス脳PET画像と同一のマウス脳MR画像を融合し、同一断面のPET画像とMR画像を表示し、解剖学的情報の乏しいPET画像から生理・生化学的指標である脳局所の糖代謝指標を算出する手法を構築してきた。平成24年度は、標準マウスMR画像を用い、各マウスMR-PET画像を標準マウス画像に変換し、自動的に脳局所糖代謝指標を算出するシステムを開発し、形態の異なるマウス脳画像から同一の標準template ROIを用いて再現性の高い解析が可能なことを示した。画像変換法として、線形変換、非線形変換いずれを用いても、ほとんど差がないこと、全自動解析法と用手的ROI設定法で、解析データに有意差がないことを確認した。これらの研究結果から、標準脳を用いたマウス脳PET画像解析法は、疾患病態評価に十分利用できることが示唆され、今後の疾患モデルマウスを用いた研究の基礎的データが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、高精度小動物用PET装置を用いて、定量性の高い脳内局所の生理学的、生化学的パラーメータを正確な解剖学的位置情報とともに入手することである。そのためには、正確な解剖情報を得るためのシステムを確立することとそのシステムを用いて定量性に関する検証をおこなう必要がある。我々は、これまで、同一マウスに対してMRとPET共通に利用できるアクリル性頭部固定装置の開発をおこなってきた。その装置により、両者の高い位置再現性が得られることを確認している。平成23年度は、同システムを用いて、すでに撮像されてマウス脳FDG-PET画像の局所脳糖代謝の指標となる対全脳平均カウント比(SUV-R)を算出し、その変動係数および吸収補正用のトランスミッションスキャンの影響を評価した。その結果、吸収補正用のトランスミッションスキャン(通常30分間)を省略できることがわかり、麻酔を伴うPETデータ収集が、短時間の撮像時間で済むことが確認できた。さらに平成24年度は、標準マウスMR画像および標準マウス脳templateROIという概念を導入し、形態の異なる複数のマウス脳に対し、標準マウスMR画像を用い、各マウスMR-PET画像を標準マウス画像に変換し、自動的に脳局所糖代謝指標を算出するシステムを開発し、再現性の高い解析が可能なことを示した。今後、疾患モデルマウスにおける病態評価をFDGおよびFDG以外の放射性トレーサを用いておこなうための重要なステップとなる。以上、本研究は概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
PET画像は機能画像であるため、単独では解剖学的部位の同定はむずかしい。そのために高磁場MR画像を用いることを試みてきたが、我々の検討結果からMR画像でも撮像法によって得られる解剖情報も異なり、詳細な脳構造の同定は、MR画像単独でも困難であることが確認されている。これを補うのが、我々が開発をすすめている電子解剖アトラスである。すでにいくつかプロトタイプのものを作成しているが、今後もさらに改良を加え、疾患やトレーサ別に利用できる解析用アトラスの作成を試みる。ヒトにおける脳PET画像および脳MR画像の解析には、標準脳画像をもちいて解剖学的標準化を行い、その後、全脳平均カウントで正規化し、統計画像処理をおこなうという一連の作業工程が必要である。これらのプロセスがシステム化されているものにSPM(statistical parametric mapping)というソフトウエアがある。これまで、サルのレベルでは使用可能であることが報告されているが、マウスレベルで使用可能かは十分に検討されていなかった。われわれの研究からヒトにおけるSPM解析同様、マウスにおいても標準マウス脳形態と簡単な線形変換を用いることで、複数のマウスでの脳機能を同一ROIを用いて解析できることが明らかとなった。 今後は、複数のマウスを用いて無麻酔下でのFDGを用いた脳賦活試験を試み、第一次中枢の同定およびvariationを評価するとともに、voxel by voxelの解析が可能か検討を行う。また、FDG以外のトレーサとして、F-18 FDOPAおよびC-11 racloprideを標識合成し、投与することで、マウスにおけるドーパミンシナプス機能を評価することを試みる。これらのトレーサを用いて線条体における内因性ドーパミン放出量を測定するための基礎的データを得ること目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
小動物用PET装置の解析には、(1)正確な部位同定、(2)各脳構造の正確な輪郭抽出、(3)各脳構造における高い定量性が求められる。脳機能解析をどのような解剖学的スケールでおこなうのかは、目的によって異なる。本研究課題では、大脳・小脳、脳幹というもっともマクロな分類から、大脳皮質、線条体、視床、小脳皮質、嗅球、など比較的大きな脳構造の解析、さらに小さな脳構造の解析へと4段階の解剖分類レベルに対応した解析を目指し、電子解剖アトラスの新しいversionの作成をおこなってきた。次年度は、さらに疾患モデルや放射性トレーサに応じた機能解剖システムを考慮したアトラス・ROI templateを新たに作成する。また、画像を標準化するためには、マウスPET画像およびMR画像から、脳実質のみを抽出する作業があり、そのために膨大な量の脳断層平面画像上の解剖学的構造の識別作業をある程度手作業でおこなう必要がある。そのための研究補助員雇用のための人件費や画像解析を含めた作業遂行補助のための人件費が必要となる。また、PET用放射性トレーサであるF-18 FDGの購入費用および、FDG以外のPET用放射性リガンドを標識・合成するための各種試薬、分離用および分析用高速液体クロマトグラフィー用カラムの購入費用などが必要となる。次年度は最終年度となるため、成果発表のための論文作成費用を計上する必要がある。
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