研究課題
アルツハイマー病(AD)の中心病理であるアミロイドβ蛋白(Aβ)沈着の進行は、Aβ分泌と除去のバランスの崩れとも捉えられる。本研究では、神経活動がAβ分泌を、血管がAβ除去機能の一端を担っていることを鑑み、特に初老から老年期に多い慢性的な脳血流(CBF)低下のAβ沈着病理進行への影響を、ADモデルマウスであるアミロイド前駆体蛋白遺伝子改変(APP-Tg)マウスを用い、in vivoイメージング技術により検証した。CBF低下のモデル動物は、個体内でCBF低下領域と健常領域を持ち、領域間でAβ沈着病理の進行が比較可能な、片側総頸動脈永久結紮による片側脳低灌流モデル(以下モデル)とした。Aβ沈着病理の進行は、2-6週間間隔でアミロイドイメージングプローブ[11C]PIBを用いたPETイメージングにより個々のモデルマウスで評価を行った。また、それと平行してMRIにより脳形態、CBF及び脳梗塞の有無の評価を行った。最終年度まで合計8匹のAPP-Tgマウスでのモデル作製を行い、早期死亡や脳梗塞発症の個体を除外した5匹にて、3-6ヶ月間PIB-PETとMRI撮像で定期的にAβ斑沈着やCBFの変化を評価した。APP-Tgのモデルマウスでは、低灌流側CBFは健側の80%以下の慢性低灌流状態を維持した。一方、Aβ沈着を表すPIB集積の上昇のしかたは両側で同程度であった。最終測定後、モデルマウスの脳を摘出し、アミロイド染色および免疫組織化学染色法によってAβ沈着分布や、その蓄積病理のAβ分子種の中でAD患者脳に多いN末端がピログルタミニル化したAβ、さらにAβ斑形成に至らずPIBでは検出できないが神経毒性が示唆されているAβオリゴマーの観察を行った。また、ミクログリア、アストロサイト活性、神経細胞脱落も評価した。その結果、いずれの病理も低灌流側と健常側に明らかな差は認められなかった。以上から、APP-Tgマウスでは、脳梗塞や神経炎症を伴わない軽度の脳血流量低下はAβ蓄積病理には影響しないことが示唆された。
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