研究課題/領域番号 |
23591834
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
榎本 敦 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20323602)
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キーワード | プロテオーム解析 / STK38 / 放射線細胞応答 / リン酸化 |
研究概要 |
本研究代表者は、これまで、X線や過酸化水素などの酸化ストレスに対して活性化する酵素としてSTK38を同定した。STK38は、酵母から哺乳類まで保存されているが、哺乳類細胞における役割や基質については、ほとんど未解明である。そこでSTK38に結合するタンパク質やin vitroにおいてリン酸化されるタンパク質をリン酸化プロテオーム解析を通じて、同定することを目的とした。スクリーニングの結果、STK38に結合するタンパク質として、DNA二重鎖切断修復に関わるもの、細胞周期制御に関わるCDC25A, CDC25C、アポトーシス誘導に関わるもの、タンパク質の安定化に関わるHSP90などを同定した。これらのSTK38結合タンパク質の内、 CDC25Aはin vitroにおいて、STK38によってリン酸化されることを見出した。つぎにSTK38のin vitroにおける基質のリン酸化部位の同定を進めた。様々なアラニン置換体の解析の結果、STK38は、CDC25Aのセリン76番をリン酸化することを突き止めた。CDC25Aのセリン76は、CDC25Aの安定化の制御にかかわっていることが知られている。そこで、細胞内でもSTK38がCDC25Aのセリン76をリン酸化しているかをSTK38をノックダウンした細胞で解析した。その結果、X線照射後、CDC25Aのセリン76のリン酸化は経時的に亢進し、CDC25Aはプロテアソームによる分解を受けてそのタンパク量が減少するが、STK38ノックダウン細胞では、照射によるセリン76のリン酸化は見られず、CDC25Aのタンパク量の減少も認められなかった。これらのことから、STK38は、CDC25Aのセリン76を細胞内でもリン酸化し、その安定化に寄与していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロテオーム解析ににより、現在までに20種類以上の相互作用タンパク質、10種類のin vitroにおける基質を同定した。その中には、DNA修復、細胞周期や細胞死など放射線細胞応答に関わるタンパク質が少なからず含まれており、本研究の目的である放射線感受性制御メカニズムの解明に向けて前進していると考えられる。また二次元電気泳動や質量分析、相互作用分子探索のプロトコールに改良を重ね、ほぼ確立出来た点も安定的に結果を輩出できている。さらに一部の基質については、リン酸化部位を同定した結果、その基質タンパク質の制御に関わる部位であることも判明し、本研究におけるストラテジーが間違っているものではないことを裏付けた。しかしながら、リン酸化部位の同定の進捗度は、予定より遅れている。これには、タンパク質の精製度や質量分析における限界など様々な技術的な問題点が挙げられる。その他、STK38の哺乳類における基質がほとんど未解明のため、そのリン酸化コンセンサス配列がわかっていないことも大きな障害となっている。そのためタンパク質の精製度を上げるためのカラム・合成宿主の変更、リン酸化部位同定のためのリン酸化アミノ酸分析や欠失変異体解析などいくつかの戦略も同時に進めていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに同定した相互作用分子に関しては、in vitroにおいてSTK38の基質となりうるかリン酸化反応を行う。また既にSTK38によってリン酸化されることが判明した分子については、様々な欠失変異体を作製し、リン酸化部位の領域の絞り込みを行うと同時に質量分析やエドマン分解法によるリン酸化アミノ酸マッピングを行い、候補部位の同定を目指していく。さらに大腸菌で不溶化してしまう基質タンパク質などについては、リコンビナントタンパク質に結合させるタグの変更やカラムの変更、あるいは昆虫の系などを用いて、タンパク質の精製を行う。リン酸化部位を同定した分子については、STK38によるリン酸化の意義を明らかにするために、アラニン置換体を哺乳類細胞に導入し、その局在、安定性、細胞応答や放射線感受性への寄与について検討する。細胞内でSTK38によってリン酸化される分子のうち、その部位のリン酸化がタンパク質の機能制御に関わっていると判明したものについは、そのリン酸化部位特異的に抗体を作製する。そしてリン酸化特異的抗体を用いた放射線照射後の基質タンパク質の動態をや感受性指標としての有用性を検討する。また遺伝的放射線修復遺伝子欠損株などを用いたリン酸化プロテオーム解析を実施し、特定の因子の欠損がもたらすシグナル伝達異常を見出し、シグナル経路の解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
タンパク質精製に係るカラムやチューブ類、シャーレ、フラスコ、培養液等の細胞培養関連製品、変異体作製のためのプライマー合成をはじめとしたPCR関連製品などの消耗品を購入する予定である。また同定したリン酸化部位が未知である場合には、その部位に対するペプチドを合成し、ウサギに免疫した後、血清を回収し、カラム精製を行って抗体を作製する。その動物維持費や抗体精製に係る消耗品を購入する。また発現確認用のタグ抗体や放射線応答に関わる市販抗体などの購入を予定している。その他、リコンビナントタンパク質を用いたin vitro リン酸化反応実験には、RI製品を用いる。また、学会参加や打ち合わせ等の出張に伴う旅費、資料整理・実験補助などに対する謝金、その他、論文投稿に係るの英文校正や投稿料などが見込まれる。
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