研究課題/領域番号 |
23591835
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井垣 浩 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (90361344)
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キーワード | スピロノラクトン / 放射線肺臓炎 / レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系 |
研究概要 |
本研究では、スピロノラクトンを投与したラットの肺に放射線を照射する実験によって、スピロノラクトンの放射線肺臓炎予防効果を確かめる。平成23年度に行った予備実験では、200mg/90daysを投与したラットでは薬剤料が少ないラットと比較して、肺線維化およびマクロファージ浸潤の左右差が明らかに少なく、十分量のスピロノラクトン投与は放射線照射後の肺の炎症誘発を抑制する効果があると考えられた。平成24年度は、この予備実験に基づいて決定した200mg/90daysのスピロノラクトン投与量に従って、スピロノラクトンの投与時期による肺の組織学的変化を比較する実験を行った。Wister系ラット(オス、平均300g)の皮下にスピロノラクトンの徐放性ペレット(Innovative Research of America社製、200mg/90days、各群6-7匹)を埋め込み、その1週間前・1週間後・1か月後にラットの右肺に放射線を15Gy照射した。コントロールとして、薬剤の埋め込みを行っていないラットにも、同様に右肺に15Gy照射した。照射後3カ月の時点で開胸し、生理食塩水・中性緩衝ホルマリンで潅流固定して病理標本を作成した。病理所見(ヘマトキシリン・エオジン染色、アザン・マロリー染色)により肺線維症に係わる項目としてマクロファージ浸潤と線維化の程度を組織学的に評価し、グレード分類を今後行ってゆく予定である。 アルドステロンは鉱質コルチコイド受容体に結合して炎症誘発性サイトカインを放出し、これによって誘導されるTGF-βが放射線肺臓炎発症の重要な因子となる。スピロノラクトンによる鉱質コルチコイド受容体阻害により、平成23年度に行った予備実験では放射線肺臓炎の予防効果が実験的に示された。平成24年度に行った動物実験でも、平成25年度に行う予定の解析により同様の効果が示されることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度には、予備実験の開始直前に東日本大震災が発生し、これに伴う学内での節電対応のために当初予定していた施設・装置の使用が制限され実験の開始が遅れたものの、最終的には当初予定していた病理組織の評価まで平成23年度内にたどり着くことが可能であった。また、病理組織評価によっても、最大容量投与群で線維化・泡沫マクロファージ浸潤の程度が軽減されていると判断できており、薬剤の効果がある程度示されていると判断され、おおむね順調に進展した。 平成24年度に行った本実験では、基礎実験という位置づけになる平成23年度に行った内容とほぼ同じ実験であり、予定外の大きなトラブルは発生せず、実験そのものは順調に進展した。ただし、当初は平成24年度中に病理学的評価を下し、線維化・泡沫マクロファージ浸潤の程度を評価する予定であったが、このステップに十分な時間が割けないまま平成24年度が終了してしまった。この点を考慮すると、当初予定していた段階まで到達しておらず本研究の現時点での評価としては、「やや遅れている」ということになる。平成25年度には、線維化・泡沫マクロファージ浸潤の程度を評価を行い、研究成果をまとめて学会発表や論文発表を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(以下 RAA系と略)が炎症誘発カスケードの活性化に大きな役割を果たしていることは以前より知られており、RAA系を阻害することによって組織の線維化が抑制されることも、一部の臓器では実験的・臨床的に確かめられている。放射線肺臓炎に関しては、動物実験レベルではアンギオンテンシンII変換酵素阻害によって放射線肺臓炎の軽減が確認されている。しかし、レニン-アンギオテンシン系の阻害だけでは、数週程度で血漿アルドステロン濃度は抑制されなくなってしまうアルドステロンエスケープ現象が起きることが知られており、実験系で投与された体重あたりのカプトプリル量も、人間の通常使用量の約10倍と、臨床的には応用不可能なシステムであった。 本研究では、実際に人間に投与可能な量の薬剤による放射線肺臓炎予防を目指しており、アルドステロン投与量も人間に投与される量と同等の範囲内で選んだ。ラットへの200mg/90daysのスピロノラクトン投与(ラットが300g/bodyとすると7.4mg/day/kg)は、我が国の臨床的投与量50-100mg/day(体重50kgとして1-2mg/day/kg)よりも多めではあるが、海外では最大400mg/day(8mg/day/kg)まで用いられている実情を考慮すれば、臨床的に十分投与可能な量と考えられた。 平成24年度には、平成23年度の予備実験から得られた200mg/90days/bodyでラットに異なるタイミング(無投与、放射線照射1週間前に投与、放射線照射1週間後に投与、放射線照射1か月後に投与の合計4群、各群7匹)でスピロノラクトンを投与し、同様の手順で実験を行ったので、平成25年度にはこの実験で得られた病理標本を用いてスピロノラクトンの放射線肺臓炎予防効果を実証する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究における平成25年度の研究費は、主にデータ保管用メディアの購入、データ解析のためのPCソフトウェアの購入、研究成果発表(学会旅費・論文出版費)に使用する予定である。 平成25年度も研究費の大半は消耗品の購入に充てられることになる。実験の成果をまとめるためのデータ保管・解析および、研究成果発表のための旅費への支出を考慮すると、平成25年度には、現在配分予定となっている700千円および前年度の残額(直接経費約288千円)は今年度の研究遂行に必要な適切な額と考えられる。
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