研究課題
(1)放射線治療と腫瘍免疫併用における基礎的検討 ~Radiation Immunologyの確立~宿主内の免疫監視機構が存在するにもかかわらず、癌細胞は生体の免疫監視機構からエスケープする。癌細胞ではMHCクラスI分子が欠失しCD8+CTLによる認識機構から逃れることが知られており、エフェクター分子であるIFN-gammaに対する反応性を消失したりアポトーシス抵抗性も獲得する。腫瘍内や所属リンパ節では抑制T細胞(CD4+CD25+Treg)が増加して腫瘍に対する生体の免疫応答を抑制するなどして腫瘍を取り巻く微小環境内では様々な因子が作用して、癌に対する免疫応答を抑制していると考えられている。放射線照射と免疫賦活剤併用により、この抑制性の環境を克服して抗腫瘍効果を誘導するために、担癌マウスモデルを用いた基礎的検討を行った。具体的には、CD4+、CD8+、NK細胞等の主要エフェクター候補が同定され、Radiation Immunologyの根拠の確立に貢献してきている。(2)再現性の高いabscopal effect誘導を利用した各種照射プロトコールの確立雌性7週齢C57BL/6系あるいはMHC classの異なるBALB/c系マウスの右側部皮下にLewis lung carcinoma (3LL) あるいはColon26細胞を(primary tumor)、左側腹部皮下に3LLあるいはColon26/MethAを(secondary tumor)移植後、右側腹部の腫瘍のみに6Gy(6MeV電子線)照射しケモカインECI301を静脈内投与すると従来の報告同様種々の組合せで有意なabscopal effectが観察された。実臨床への応用を見据えて、6Gy単回照射と2Gy5日間連続投与法による違いも観察した。
2: おおむね順調に進展している
本研究のうち研究立案及び放射線照射は、東京大学医学部付属病院において多様な癌腫の集学的治療の経験豊富な我々放射線科治療部(中川恵一准教授)で順調に実施している。臨床試験を見すえた実践的発展を図るため、東大病院22世紀医療センター免疫細胞治療学(メディネット)講座の垣見和宏客員准教授に免疫細胞学の観点から適宜助言をいただいていることも研究の大きな原動力となっている。一方で、共同体制予定だったoligo-recurrence理論提唱者の北里大学医学部放射線腫瘍学講座の当該年度の辞退や大震災に伴う本研究採択通知の遅延等もあって完全に予定通りの進展には至らなかったものの、細胞・分子生物学的処理においては株式会社エフェクター細胞研究所から免疫賦活剤として質の高いケモカインの提供を受けることができた。そして東京大学大学院医学系研究科社会予防医学講座分子予防医学教室(松島綱治教授)研究員の技術協力の下にマクロ及びミクロ視的解析も実施でき、多部門が緊密に有機的連携をしていることで円滑・効率的に研究が進捗している。
abscopal effectの機序の解明 -腫瘍内浸潤細胞数の変化-abscopal effectのeffector cell解明に向けて、フローサイトメーター(FACS)を用いた過去の詳細な細胞生物学的検討(腫瘍内のCD4、CD8陽性T細胞、CD4CD25陽性抑制性T細胞、NK細胞、NKT細胞、gamma-delta T細胞などのエフェクター細胞、CD11c陽性DCやCD11b陽性細胞などの抗原提示細胞(APC)や各種炎症性サイトカインで中心的役割を果たしていると予測されたT細胞系の関与を明らかにする。そしてもっとも重要なテーマと位置付けられる、放射線治療や化学療法における抗腫瘍作用機序の免疫学的な一役を担うと提唱されつつある High mobility group box-1 (HMGB1) タンパクに着目し、ligandであるDC上に発現するToll様受容体 (TLR) 4の関与を明らかにすべく、抗HMGB1抗体処理下の皮下腫瘍照射実験を行う。抗腫瘍効果の解除を誘導できれば、アブスコパル効果の本質としてHMGB1が認識するTLR4活性化を介したDCの誘導がrationaleと考えられるからである。
初年度は研究計画作成および研究結果の記録、解析、検討のためにPCを購入したが、計算・統計・画像処理の部分で今後の研究が重要であり、さらに当該ソフトパッケージが必要となる。また、2年目も生物実験系では多数のマウスが必要となるため、その購入費用に加え飼育費、周辺管理費の必要性がある。さらに免疫系の詳細な解析のため、特に染色の試薬とこれに関わる器材の準備が重要であり、相当の費用を要する見込みである。
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