研究課題
本年度の研究成果は、まず、グルコースの6位ヒドロキシル基を2-ニトロイミダゾール基に置換したUTX-86およびそのアセチル化体であるUTX-87を分子設計・合成した。放射線増感活性の指標としてMOPAC03を用いて電子親和性(EA)を求めたところ、UTX-86がEA=0.7713eV、UTX-87がEA=0.7677eVとなり、リード化合物のTX-2244(EA=0.9661)と比較してやや低い電子親和性を示した。また、薬物動態の指標としてPallas 3.0を用いて疎水性パラメータを算出したところ、UTX-86がP=0.023、UTX-87がP=0.87であり、UTX-86はTX-2244(P=0.105)よりも低い疎水性を示した。マウス乳腺癌由来EMT6/KU細胞に対するin vitro低酸素細胞放射線増感活性は、UTX-86がER=1.37(1.0mM)、UTX-87がER=1.01(1.0mM)であり、TX-2244(ER=2.30、1.0mM)と比べて大きく活性が低下した。両化合物の細胞内取り込みについて細胞抽出液を逆相HPLCで評価したところ、UTX-86が0.67%、UTX-87が1.39%であり、疎水性に比例した取り込み率を示した。また、グルコースの取り込み阻害活性を2-NBDG法で調べたところ、UTX-87(1mM)はグルコーストランスポーター(GLUT)の阻害剤であるサイトカラシンB(10uM)と同程度の阻害活性を示したが、UTX-86は全く阻害活性を示さなかった。以上の結果より、GLUTに対する阻害活性は放射線増感活性に寄与しない事、また、グルコースの6位ヒドロキシル基の2-ニトロイミダゾール基による置換は放射線増感活性に不利に働くことが示唆された。この知見は、今後のグルコース修飾放射線増感剤の分子設計に対して有用な情報となった。
2: おおむね順調に進展している
本研究の初年度の目的であるグルコースに直接2-ニトロイミダゾール基を導入した放射線増感剤UTX-86およびUTX-87を分子設計・合成できた事,またそれら化合物のin vitro放射線増感活性,細胞内取込み率,グルコーストランスポーターに対する作用を評価できた事から,当初の目的をほぼ達成していると思われ,「おおむね順調に進展している」を選択した.
今後は,グルコースの6位にスペーサーを介して2-ニトロイミダゾール基を導入した化合物や,グルコースの2,3,4位のいずれかを用いて2-ニトロイミダゾール基を導入した化合物を分子設計・合成する.そして,それら化合物のin vitro放射線増感活性,細胞内取込み率,グルコーストランスポーターに対する作用,薬物動態解析を評価し,定量的構造活性相関によりニトロアゾール修飾グルコースのリード薬剤の創出を試みる.
本年度の予算残金が1348円生じたことの理由として,当初予定していた試薬の価格に若干の変更があったことが挙げられる.この残金については翌年度の物品費と合算して,合成用試薬や細胞培養用試薬,発育鶏卵,各種キットを購入する予定である.
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放射線生物研究
巻: 46 ページ: 221-233
Journal of Radiation Research
巻: 52 ページ: 208-214