研究課題/領域番号 |
23591845
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研究機関 | 茨城県立医療大学 |
研究代表者 |
窪田 宜夫 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 教授 (20046139)
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キーワード | 放射線増感 / フィトケミカル / celastrol / ヒト腫瘍細胞 |
研究概要 |
本研究では様々なフィトケミカル(植物由来化学物質)に着目し、ヒト由来の癌細胞の放射線感受性の増強の可能性について検討した。様々なフィトケミカルについて予備的な実験を行い、その中からハーブ由来のcelastrolがいろいろなヒトの癌細胞の放射線感受性を増強することを見出した。celastrolはHsp90の阻害作用も有している。そこでヒト肺がん由来のH1299細胞にp53の正常な遺伝子を導入したH1299/WTとp53の変異型遺伝子を導入したH1299/248細胞を用いて、celastrolの放射線増感効果について検討した。celastrolは両方の細胞で放射線感受性を増強し、10%生存率での増感比はほぼ1.5であった。一方、ヒト肺由来の正常細胞であるHFL-III細胞では放射線感受性の増強は小さく1.2であった。ヒト癌細胞での放射線感受性の増強のメカニズムを探るために、放射線照射後のDNA二本鎖切断の修復をγ-H2AX focus assayで調べると、celastrolは照射後のDNA二本鎖切断の修復を阻害することが見出された。さらにヒト肺がん由来のSQ-5細胞をヌードマウスに移植後、腫瘍系がほぼ10㎜の時点で、放射線とcelastrolの併用効果を調べると、celastrolは有意に放射線の腫瘍増殖抑制を増強するといった結果が得られた。 これらの結果より、celastrolはヒト腫瘍のp53遺伝子のstatusによらず、放射線感受性を増強すること、そしてそのメカニズムには放射線照射により引き起こされるDNA二本鎖切断の修復を阻害することが強く示唆された。またxenograftモデルの実験より、celastrolはin vitroのみならずin vivoでも放射線感受性を増強することより、放射線治療の増感剤としての可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はフィトケミカル(植物由来化学物質)からヒト癌細胞の放射線感受性を増強するものを見出し、その放射線増強効果のメカニズムと放射線治療への応用を視野に入れて研究を進めている。今回、様々なフィトケミカルの中から、ハーブ由来のテルペン類のcelastrolが、ヒト癌細胞をp53遺伝子のstatusによらず放射線増感すること、そしてin vitro系のみならずin vivoの実験系においても増刊効果が観察されることを見出した。実験はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、我々はフィトケミカルであるcelastrolが、ヒト癌細胞の放射線感受性を増強し、それはp53遺伝子のstatusによらないこと、またin vivo xenograftモデルにおいても放射線増感効果が得られた。これらの結果はcelastrolが放射線治療の放射線増感剤として期待されることを示している。一方、近年、癌幹細胞は腫瘍組織を構成するすべての腫瘍細胞の源となるために必要な生物学的性質を有しており、治療後の再発や転移に深く関与していることが明らかにされてきた。このことは癌幹細胞を治療標的とした治療法を考える必要があることを示している。 そこで我々はヒト腫瘍細胞から癌幹細胞のマーカーであるCD133陽性の癌幹細胞様細胞を用いて、celastrolの放射線感受性増強の可能性とそのメカニズムについて、さらなる検討をする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、上に述べたようにCD133陽性の癌幹細胞様細胞を用いて、celastrolの放射線感受性の増強効果について、そしてさらにその分子メカニズムを探ることを計画している。また、多細胞スフェロイドを構築し、その中の癌幹細胞様細胞の発現に及ぼすcelastrolの影響について検討する予定である。これらの実験では特に新たな備品は必要ではなく、研究費は基本的に試薬、牛胎児血清、抗体等の消耗品に充てる予定である。
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