研究課題/領域番号 |
23591861
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 健 浜松医科大学, 学内共同利用施設等, 技術専門職員 (20397433)
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研究分担者 |
海野 直樹 浜松医科大学, 医学部附属病院, 講師 (20291958)
成 憲武 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (30378228)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 腹部大動脈瘤 / レニン-アンギオテンシン系 / 炎症細胞 / カテプシン / マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP) / 血管中膜・外膜 |
研究概要 |
大動脈瘤とは動脈の異常な拡張であり、その中でも腎動脈分岐部から腸骨動脈の間に生じる腹部大動脈瘤(AAA)が最も頻度が高い。AAAは、その破裂が非常に高い死亡率に達するため重篤な疾患であると考えられているが、、このAAAの形成・進展・破裂に関するメカニズムについてはあまり研究が進んでいない。レニン-アンギオテンシン(RA)系は、生体の血圧変動と密接に関係する酵素-ホルモン系であり、この中でアンギオテンシンII(AngII)は血圧上昇の誘起だけでなく、AAAの形成・進展への関与が疑われているが、その関与の詳細や機序については未だ多くが不明である。一方、最近の研究では、動脈硬化症モデルマウスやヒトの病変部においてAngII受容体であるアンギオテンシン1型レセプター(AT1R)の強い発現が認められ、そのAT1R発現細胞の一つとしてマクロファージが同定された。このマクロファージは、プロテアーゼを分泌して血管壁のECMを分解、血管壁の脆弱化を誘起することが知られている。 これらのことから、RA系がマクロファージからのプロテアーゼ分泌を介し、動脈壁の脆弱化を誘導してAAAの形成・進展に関与しているという仮説が考えられた。 現在までの研究成果として、ヒトAAA病変においてAngII、AT1R、ACE、CD68、CD20の発現が認められ、特にAT1R、CD68、CD20は正常検体に比べてより強い発現であった。また、中膜から外膜領域にマクロファージとB細胞の浸潤が認められ、AT1Rはマクロファージのみならず、B細胞においても発現が認められた。加えて、このB細胞の集簇領域において、幾つかのプロテアーゼの局在が観察された。以上の結果から、ヒトのAAAの形成・進展にRA系の関与が疑われたが、この中でも特に、炎症細胞とそれらが分泌プロテアーゼの関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究成果として、ヒト腹部大動脈瘤(AAA)病変の検体において、様々な因子の局在が確認され、それらのAAAの形成・進展に対する関与が予想されている。これらのことは、当初の仮説におおむね準ずるものである。しかしながら、その一方で、今まではあまり考えられていなかった、言いかえれば想定外の因子が検出され、この因子がAAAの形成・進展に関与することを示唆する結果も得られている。この研究結果(成果)は、場合によってはAAAの形成・進展メカニズムについて新たな概念をもたらすものになり得る可能性がある。今後は、本件に関する研究も精力的に進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、平成23年度から引き続いてヒトの病理組織学的な評価を行ない、さらに腹部大動脈瘤(AAA)動物モデルを用いた検討(プロテアーゼや炎症細胞の関与についての検討)をも継続して遂行する予定である。その一方で、動物モデルの病態に関しては、その手技によりばらつきが多いことや、ヒトの病態との違いが大きいこと(ヒトの病態を表わしていないこと)がありえる。このため、この点に留意して本研究を進めていくことを考えている。 また、平成23年度の研究から得られた新たな知見(現在まで、AAAの形成・進展に対してその関与が想定されていなかった新たな因子)についての検討も、さらに推進していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、主にヒトのAAA病理標本解析を中心に行ない、AAA動物モデルを用いた解析はその結果をもとにして現在進行中である。このため、当初予定していたAAA動物モデルを用いた研究は、平成24年度以降も継続する予定であり、本研究に用いる平成23年度分の研究予算も、一部を平成24年度以降に使用する予定である。これが「収支状況報告書」の「次年度使用額」に当たる予算であり、本予算は平成24年度中には全て使用される予定である。 また、それ以外の平成24年度に割り当てた研究予算は、当初の計画通りに執行する予定である。
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