研究課題/領域番号 |
23591861
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 健 浜松医科大学, 技術部, 技術専門職員 (20397433)
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研究分担者 |
海野 直樹 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (20291958)
成 憲武 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30378228)
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キーワード | 循環器・高血圧 / 腹部大動脈瘤 / 炎症細胞 / アンギオテンシン / プロテアーゼ |
研究概要 |
腹部大動脈瘤(AAA)は大動脈瘤の中でも最も頻度が高く、このAAAは破裂した場合は非常に高い死亡率に達する極めて重篤な疾患であるが、このAAAの形成・進展・破裂に関するメカニズムについてはあまり研究が進んでいない。我々の最近の研究では、ヒトAAAの病変部において、マクロファージのみならずB細胞等の炎症細胞の局在が確認されたが、AAAにおけるB細胞の役割は殆ど分かっていない。本研究では、AAA病変に局在するB細胞に着目し、B細胞やその周辺における様々な分子の発現を調べ、AAA形成・進展におけるB細胞の役割について考察した。 浜松医科大学付属病院血管外科及び病理部において採取されたヒトAAAの病理組織を薄切し、細胞マーカー、RA系の因子、プロテアーゼとその内因性阻害因子に対する各抗体で免疫組織化学染色を行ない、各抗体に対する染色領域をAAAと正常大動脈、またはAAAの非瘤化部、中間部、瘤化部との間で比較した。さらに上記の複数の抗体を用いて免疫蛍光二重染色を行ない、各分子の発現細胞を同定した。 ヒトAAA病変において炎症細胞の浸潤とRA系因子とプロテアーゼの発現が認められた。特にB細胞は中外膜の境界付近に数多く浸潤し細胞群を形成していた。また、AT1R、CD68、CD20は正常組織に比べて発現が高く、カテプシンSとMMP-13は非瘤化部に比べて瘤化部で高い発現であった。これに反して、カテプシンやMMPの内因性阻害分子であるシスタチンCやTIMP-2は瘤化部で発現が低かった。免疫蛍光二重染色では、B細胞やマクロファージにおいてAT1Rやプロテアーゼの発現が観察された。以上の結果から、AAAの形成・進展にマクロファージやB細胞のような炎症細胞の関与が疑われ、これらの細胞、特にB細胞からのRA系を介したプロテーゼ分泌によるAAAの形成・進展という新しい機序が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに、本研究により腹部大動脈瘤の形成・進展においてレニンアンギオテンシン(RA)系やプロテアーゼ(カテプシンやMMPs)の関与が示唆された。これらのことは、本研究の仮説の中で当初予測していたものを裏付ける結果となり、腹部大動脈瘤の形成・進展のメカニズム解明に寄与するものであると言える。ここまでの研究の進捗状況や達成度は、おおむね順調であったといえる。 しかしながら、その後の研究で、これらRA系やプロテアーゼの関与に重要な役割を果たしていると予測していた細胞が、当初のマクロファージよりもむしろB細胞であり、B細胞が腹部大動脈瘤の形成・進展メカニズムにおいて大きな役割を担っている可能性が疑われるようになった。 このような背景から、平成24~25年度において本研究の計画を変更し、新たな研究計画を構築し、腹部大動脈瘤の形成・進展メカニズムにおけるB細胞の関与とその機序を調べる研究を行っている。 以上のことから本研究の進捗状況や達成度は当初の予定より「(3)やや遅れている」としたが、本研究内容は現在までにほとんど考えられていなかった仮説であり、世界的にも注目を集める研究であると思われる。 なお、本研究に関しては、「補助事業期間延長申請」を行い承認されたため、平成26年度においても継続して研究活動を行い、遅れている部分を取り戻す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」の項目でも述べたが、本研究において、腹部大動脈瘤の形成・進展においてB細胞の関与が疑われるようになった。このため、研究計画を見直し当初の研究計画とは異なる方向性で研究を進めることとなっている。 その後の研究では、主にこのB細胞について研究を進めている。本研究課題は、当初の計画では平成25年度に終了する予定であったが、研究計画の見直し・変更等があったため研究の達成度は「やや遅れている」状況である。よって、本研究課題について「補助事業期間延長申請」を行ったところ承認されたため、平成26年度においても継続して研究活動を行う予定である。 なお、変更後の研究計画に対して概ね研究結果は出てきており、今後はこの研究結果をまとめて論文等で発表する予定である。 また、今回発生した研究費の未使用額は、主に論文の投稿費用、学会発表等の旅費、投稿論文に際して派生する追加実験の費用に当てる予定である。加えて研究成果を急いでまとめる必要もあるため、補佐員を雇用し一部謝金として使用することも考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題に関して、先述したように研究期間の途中で研究計画の見直しと研究計画の一部変更があった。現在のところ、その計画変更後の目標に到達しつつあるが、本研究課題の最終目標は研究成果の公表(学会発表や論文発表)であり、これについては平成25年度内には到達できなかった。 以上のような背景から、研究成果の公表(論文発表)やそれに付随する経費(論文投稿費用や追加実験の費用など)が次年度使用額として残った。 今後論文を投稿し発表する予定であり、論文投稿費や追加実験が必要になった場合の実験経費(主に消耗品)、また論文執筆に際して必要となる情報の収集(学会等への参加費)などが必要になる。 以上のことから、次年度において、論文校正費、論文投稿費、印刷費、学会出張費、追加実験にかかる消耗品や謝金といった費用に、本未使用額を充てる予定である。
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