研究課題/領域番号 |
23591864
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
貞森 裕 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (30362974)
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研究分担者 |
高橋 英夫 近畿大学, 医学部, 教授 (60335627)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | RAGEリガンド / 臓器移植 / HMGB-1 / AGE / 肝切除 / 虚血再灌流障害 |
研究概要 |
1.動物実験モデルによるRAGEリガンドの動態・機能解析 平成23年度には正常ラットと糖尿病モデルラットを用いて、肝臓の虚血再灌流+肝切除モデルを確立し、虚血再灌流障害・肝再生・肝アポトーシスにおけるHigh mobility group box-1 (HMGB-1)およびAdvanced glycation end products (AGEs)等のReceptor for AGE (RAGE) リガンドの動態および機能を解析した。その結果、肝切除単独モデルに比べ肝臓の虚血再灌流+肝切除モデルにおいては、有意にHMGB-1が肝細胞の核内に強発現し、さらに細胞質へtranslocationしている所見を免疫組織染色およびWestern blot法にて得た。肝臓の虚血再灌流障害にも関わらず、肝アポトーシスは抑制され肝再生による組織修復を認めたが、糖尿病モデルラットにおいて肝再生の遅延を認めた。2. RAGEリガンドを介した免疫担当細胞の活性化機構の解明 平成23年度にはMixed lymphocyte reaction を用いて、AGEsの各サブタイプおよびHMGB-1によって免疫担当細胞を活性化し、Flow cytometry法, ELISA法, Proliferation Assayを用いて単球/マクロファージ上の細胞接着因子 (ICAM-1, B7.1, B7.2, CD40, etc)の発現、各種サイトカイン (IFN-γ, TNF-α, etc)の産生能、Tリンパ球の増殖反応を解析した。その結果、HMGB-1はtoll-like receptor(TLR)およびRAGEを介して単球/マクロファージ上の細胞接着因子の発現を増強し、サイトカイン産生およびTリンパ球増殖反応を促進させ、それらはMAPKおよびNF-κBによるシグナル伝達を介しているデータを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本邦における臓器移植や肝臓外科領域では、症例数の増加に伴い、糖尿病や動脈硬化症等の生活習慣病を合併する割合も増えている。これら生活習慣病では、最終糖化産物であるAGEsや新規に発見された起炎性因子であるHMGB-1等のRAGEリガンドが病態を進展させる。そのため本研究においては、生活習慣病の病態形成に関与するAGEs やHMGB-1等のRAGEリガンドが肝臓における虚血再灌流障害・肝再生過程や拒絶反応を含めた臓器移植における免疫機構に及ぼす影響をVivoおよびIn vitroの両面から解析し、RAGEを介した自然免疫機構を制御することによって、新たな免疫制御システムの確立を目指している。まずVivoでは、正常ラットと糖尿病モデルラットにおける肝臓の虚血再灌流+肝切除モデルを確立し、虚血再灌流障害・肝再生・肝アポトーシスにおけるHMGB-1およびAGEsの動態および機能を解析した。肝臓の虚血再灌流+肝切除モデルにおいてはHMGB-1が肝切除24時間後をピークに経時的に発現が増強しており、免疫染色にて発現部位を同定した。その結果、細胞外に放出されたHMGB-1は虚血再灌流障害の増悪に関与する共に、細胞質にtranslocationしたHMGB-1は肝再生による組織修復に機能的に寄与している可能性を示唆するデータを得た。In vitroでは、HMGB-1はTLRとRAGEの両レセプターを介して単球/マクロファージ上の細胞接着因子の発現を増強させ、サイトカイン産生およびTリンパ球増殖反応を促進させた。これらはMAPKおよびNF-κBによる細胞内シグナル伝達を介しているデータを得た。このように平成23年度には、RAGEリガンドの動態・機能に関するデータを動物実験モデルおよびIn vitroの両面で得ることができ、自然免疫機構に及ぼす影響の制御に向けての基礎データの収集を達成し得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度には正常ラットと糖尿病ラットを用いた肝臓の虚血再灌流+肝切除モデルにおいて、虚血再灌流障害・肝再生・肝アポトーシスにおけるHMGB-1およびAGEの動態および機能を解析し、臓器移植や外科侵襲下でのRAGEリガンドの病態関与を示唆するデータを得た。一方、In vitroではHMGB-1が免疫担当細胞上の細胞接着因子の発現を増強し、サイトカイン産生およびTリンパ球増殖反応を促進させ、これらはMAPKおよびNF-κBによる細胞内シグナル伝達を介しているデータを得た。そのため今後は、臓器移植や外科侵襲下でのRAGEリガンドを介した免疫機構を細胞内シグナル伝達の制御によって修飾可能か否かをVivoとIn vitroの両面から解析する。まずVivoでは、肝臓の虚血再灌流+肝切除モデルにおいて、抗HMGB-1抗体、新規mTOR阻害剤 (Everolimus)およびRAGE阻害剤(TTP488)の投与による虚血再灌流障害の軽減効果や肝再生/肝アポトーシスへの影響を解析し、臓器移植や外科侵襲下における新たな自然免疫制御システムの確立を目指す。In vitroでは、HMGB-1やAGEsによる RAGEを介した免疫担当細胞の活性化が、新規mTOR阻害剤 (Everolimus)やRAGE阻害剤(TTP488)の投与によって制御可能か否かを検討し、生活習慣病を合併した臓器移植における拒絶反応の制御に応用可能な治療法を模索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.動物実験モデルを用いての各種薬剤によるRAGEを介した自然免疫機構の制御 平成23年度に確立した肝臓の虚血再灌流+肝切除モデルを用いて、平成24年度には抗HMGB-1抗体、新規mTOR阻害剤 (Everolimus)およびRAGE阻害剤(TTP488)の投与による肝臓の虚血再灌流障害の軽減効果、肝再生および肝アポトーシスへの影響および生存率を検討する。そして、蛍光染色・Flow cytometry法・Western blot法・mRNA解析を用いて、肝臓におけるHMGB-1・AGEsの発現と肝臓内のIL-6・TNF-α・iNOS・STAT3リン酸化・Caspase-3の経時的推移を解析することによって、上記薬剤投与によるRAGEリガンドを介した自然免疫機構の制御機序および肝再生/アポトーシス等の組織修復過程への影響を解明する。2.RAGEを介した免疫担当細胞内シグナル伝達の制御 平成23年度にはMixed lymphocyte reaction を用いて、AGEsの各サブタイプおよびHMGB-1によって免疫担当細胞を活性化し、Flow cytometry法, ELISA法, Proliferation Assayを用いて単球/マクロファージ上の細胞接着因子 (ICAM-1, B7.1, B7.2, CD40, etc)の発現、各種サイトカイン (IFN-γ, TNF-α, etc)の産生能、Tリンパ球の増殖反応を解析した。平成24年度にはHMGB-1やAGEsによるRAGEを介した免疫担当細胞の活性化が、新規mTOR阻害剤 (Everolimus)、RAGE阻害剤によって制御可能か否かを検討し、RAGEを介した細胞内シグナルであるEgr-1・NF-κB・MAPKを解析することによって、その制御メカニズムを解明する。
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