研究課題
1.動物実験モデルにおけるRAGEリガンドの動態・機能解析と制御肝臓の虚血再灌流障害(I/R injury)+肝切除モデルを用いて、High mobility group box-1 (HMGB-1)の動態・機能を解析し、その制御を目指した。その結果、肝切除単独群に比べI/R injury+肝切除群においては、HMGB-1が有意に肝細胞の核内に強発現し、細胞質へtranslocationしている所見を得た。I/R injury+肝切除群では、cell cycleを抑制するp21が強発現し、肝細胞増殖は有意に抑制され、肝切除単独群に比べ細胞サイズが有意に増大しており、残肝再生は肝細胞のhypertrophyに起因していた。I/R injury+肝切除群に抗HMGB-1抗体を投与した結果、I/R injuryの軽減効果を認めると共に、肝再生においては肝細胞のhypertrophyを軽減し、肝細胞増殖を促進させる所見を得た。2. RAGEリガンドを介した免疫担当細胞の活性化機構の解明と制御ヒトでのMixed lymphocyte reaction (MLR) では、HMGB-1は単球/マクロファージ上の細胞接着因子の発現を増強させ、サイトカイン産生およびTリンパ球増殖反応を促進させた。HMGB-1によるMLRでのTリンパ球増殖反応は、抗ICAM-1抗体・抗B7.1抗体・抗B7.2抗体および抗CD40抗体投与によるcostimulatory signalのブロックによって抑制可能であることを示した。また、RAGE・toll-like receptor(TLR)2/4のノックアウトマウスを用いて、HMGB-1による単球/マクロファージの活性化は主にRAGEを介することを示し、抗RAGE抗体によって、HMGB-1によるMLRでのTリンパ球増殖反応が抑制される所見を得た。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては、生活習慣病の病態形成に関与するAGEs やHMGB-1等のRAGEリガンドが肝臓における虚血再灌流障害(I/R injury)・肝再生過程や臓器移植の拒絶反応に及ぼす影響・メカニズムをVivoおよびIn vitroの両面から解析し、RAGEを介した自然免疫機構の制御を目指してきた。まずVivoでは、肝臓のI/R injury+肝切除モデルにおいてHMGB-1の動態・機能を解析し、抗HMGB-1抗体投与による制御を目指した。その結果、I/R injuryによって肝再生過程の肝細胞にHMGB-1の核内強発現と細胞質へのtranslocationを認めると共に、cell cycleを抑制するp21が強発現し、肝細胞増殖は抑制され、残肝再生は主として肝細胞のhypertrophyに起因していた。そして、抗HMGB-1抗体投与は、I/R injuryの軽減効果を示すと共に、肝再生過程においては肝細胞のhypertrophyを軽減し、肝細胞増殖を促進させる所見を得た。In vitroでは、HMGB-1は主としてRAGEを介して単球/マクロファージ上の細胞接着因子の発現を増強させ、サイトカイン産生およびTリンパ球増殖反応を促進させた。そして、これらヒトMLRでのTリンパ球増殖反応はcostimulatory signalに対する抗体療法および抗RAGE抗体によって抑制し得るデータを得た。このように、RAGEリガンドであるHMGB-1の動態・機能および制御に関するデータを動物実験モデルおよびIn vitroの両面で得ることができ、臓器移植や外科侵襲下におけるRAGEリガンドを介した自然免疫機構の制御に向けた研究データの集積を達成し得た。
肝臓の虚血再灌流障害(I/R injury)+肝切除動物実験モデルでは、抗HMGB-1抗体投与によってI/R injuryの軽減効果が得られ、肝再生過程においては肝細胞のhypertrophyを軽減し、肝細胞増殖を促進させる所見を得た。今後は、抗HMGB-1抗体投与によるHMGB-1の制御が肝再生過程に及ぼす影響・メカニズムをさらに解析していくと共に、肝切除および肝臓移植における虚血再灌流障害の軽減および肝再生促進を目的とした臨床応用を推進し、臓器移植・外科侵襲におけるRAGEリガンドを介した自然免疫制御システムを模索していく方針である。In vitroでは、HMGB-1による単球/マクロファージの活性化を介したTリンパ球の増殖反応は、costimulatory signalのブロックによって抑制可能であることを示した。また、HMGB-1添加によるMLRでは、単球/マクロファージ上のRAGEおよびTLR-4が強発現していることをFlow cytometryで示し、抗RAGE抗体の投与によって、MLRでのHMGB-1によるTリンパ球の増殖反応が抑制される所見を得た。本研究によって、HMGB-1を主体としたRAGEリガンドによる免疫担当細胞の活性化が臓器移植における拒絶反応の誘発および難治化に関与している可能性が示唆され、今後は臓器移植後の拒絶反応制御を目的としてRAGEリガンドをターゲットとした臨床応用可能な治療法を模索していく方針である。
現在は上記の実験結果について総括・統計解析を施行しており、国内外での誌上および学会発表を行う準備を進行中である。平成25年度の研究費は、本研究結果の国内外での誌上および学会発表に対して使用する予定である。なお、次年度使用額が発生した理由としては、本年度の研究における経費節約が可能となったためである。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (14件) 図書 (1件)
Journal of Gastrointestinal Surgery
巻: 17(1) ページ: 203/206
doi: 10.1007/s11605-012-1907-5.
巻: 17(2) ページ: 403-407
doi: 10.1007/s11605-012-2006-3.
Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences
巻: 20(2) ページ: 223-233
doi: 10.1007/s00534-012-0531-9.
European Journal of Pharmacology
巻: 701(1-3) ページ: 194-202
doi: 10.1016/j.ejphar.2012.11.058.
Journal of Gastroenterology
巻: Epub ahead of print ページ: Epub ahead
10.1007/s00535-013-0763-8Online
巻: 16(6) ページ: 1278-1281
doi: 10.1007/s11605-012-1836-3.
巻: 19(4) ページ: 438-448
doi: 10.1007/s00534-011-0459-5.
Hepatogastroenterology
巻: 59(114) ページ: 578-583
doi: 10.5754/hge11452.
Clinical Transplantation
巻: 26(6) ページ: 877-883
doi: 10.1111/j.1399-0012.2012.01651.x.