研究課題
手術侵襲後の生体防御反応および術後合併症の発症の機序・病態を脂肪細胞の視点から解明するために,腹膜炎(CLP)動物モデルを用い,脂肪細胞のアディポサイトカイン(レプチン,アディポネクチン),サイトカイン(TNF-α,IL-6),monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)の発現を分子生物学的手法で測定した.雄性C57BL/6マウス(8-10週令)に,吸入麻酔後,コントロールのCLP群(盲腸結紮後,21G針にて2回穿刺し糞便を排出させる)を作成し, 24,48時間後に全身麻酔下で犠死させ,PPAR-γアゴニスト(10mg/kg/day)をCLP施行前に1,3,7日間投与したCLP群を作成し,同様に行った.両群のコントロールとしてSham(開腹のみ)を作成.CLP群の生存率に比して,PPAR-γアゴニスト投与CLP群の生存率は有意に改善した.CLP施行前の血中アディポネクチン値は,CLP群に比してPPAR-γアゴニスト投与CLP群が有意に高値だった.逆に,CLP後の血中IL-6値は,CLP群に比してPPAR-γアゴニスト投与CLP群が有意に低値だった.脂肪細胞のTNF-α,IL-6,MCP-1の発現は,CLP群に比してPPAR-γアゴニスト投与CLP群が有意に低発現だった.これらの結果が,Journal of Surgical Researchに「Effects of pioglitazone on survival and omental adipocyte function in mice withsepsis induced by cecal ligation and puncture」で掲載された.また,臨床研究のまとめとして「侵襲と免疫」に「性差によって外傷の治療成績は変わるか?」を執筆し,掲載された.
2: おおむね順調に進展している
アディポネクチン産生調節物質(PPAR-γアゴニスト)をCLP前投与することによって,核内受容体であるPPAR-γを刺激し,アディポネクチンの産生を亢進させ,CLPの生存率が改善するという仮説をたてて検討した.その結果は,仮説を証明できる結果であったため,おおむね順調に進展していると考えている.
PPAR-γアゴニストの抗炎症作用機序を解明するために,腹膜炎(CLP)動物モデルを用いる実験系は継続し,あらたにヒト大網脂肪前駆細胞を培養した成熟ヒト大網脂肪細胞を用いたin vitroとして再現できるか否かを検討する.
雄性C57BL/6マウス(8-10週令)にCLPを作成する.Omental Differentiation Medium(insulin , PPAR agonist, IBMX, Dexamethasone)でヒト大網前駆脂肪細胞を3週間培養しヒト大網成熟脂肪細胞へと分化させる.培地を2%FBS含有DMEM/F-12に交換(PPAR-γアゴニスト 1mM処置)する. CLP 24時間後に全身麻酔下で犠死させ,腹腔内へDMEM/F-12を1ml投与し腹腔内洗浄液を回収する. 回収した腹腔内洗浄液を遠心分離し(2000g、15min),上清を回収する群と腹腔内洗浄液中に含まれている腹腔内マクロファージをそのまま用いる群と2群用意する.腹腔内洗浄液中に含まれている腹腔内マクロファージ数をカウントし,細胞数を一定になるようにDMEM/F-12で希釈する.腹腔内洗浄液の上清と前駆脂肪細胞を分化させた成熟脂肪細胞を培養あるいは腹腔内洗浄液中に含まれている腹腔内マクロファージと成熟脂肪細胞を培養する.それぞれの群で,IL-6,MCP-1等のmRNAの発現,細胞内蛋白質の量をPPAR-γアゴニストであるピオグリタゾン処理の有無で検討する.
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J Nippon Med Sch
巻: 79 ページ: 4-18
J Surg Res
巻: 171 ページ: e215-e221
侵襲と免疫
巻: 20 ページ: 36-38