研究課題
平成23年度の研究から,マウス敗血症モデル・盲腸穿刺結紮術(CLP)でのPPAR-γアゴニスト(ピオグリタゾン)投与が,脂肪細胞からのアディポネクチン産生を亢進し,炎症性メディエーターであるTNF-α,IL-6,MCP-1の発現を低下させることで,脂肪組織という局所から全身の抗炎症反応を制御することが示された.平成24年度は,ピオグリタゾンの抗炎症作用機序を解明するために,実験系をヒト培養脂肪細胞を用いたin vitroとして,その機序を検討した.Omental Differentiation Medium(insulin , ピオグリタゾン, IBMX, Dexamethasone)でヒト大網前駆脂肪細胞を3週間培養し成熟脂肪細胞へと分化させ,培地を2%FBS含有DMEM/F-12に交換(ピオグリタゾン 1mM処置)した.CLP 24時間後に全身麻酔下で犠死させ,腹腔内へDMEM/F-12を1ml投与し腹腔内洗浄液を回収し,遠心分離(2000g,15min)を行った.腹腔内洗浄液の上清と前駆脂肪細胞を分化させた成熟脂肪細胞を共培養し,脂肪組織における炎症性サイトカインのmRNA発現レベルを解析した.結果は,ヒト大網脂肪細胞をCLP由来腹腔内洗浄液で処置するとIL-6及びTNF-αのmRNA発現は著しく上昇したが,ピオグリタゾン前処置をしたCLP由来の腹腔内洗浄液においては,それらのサイトカイン発現上昇は抑制された.さらに,この腹腔内洗浄液による脂肪細胞サイトカイン誘導作用は,ピオグリタゾン前処置により阻害された.以上から,術前ピオグリタゾンの投与が,脂肪細胞における術後のIL-6などの炎症性サイトカインの発現を抑え,全身の炎症反応を緩和する可能性を示唆していると考えられた.
2: おおむね順調に進展している
アディポネクチン産生調節物質(PPAR-γアゴニスト,ピオグリタゾン)をCLP前投与することによって,核内受容体であるPPAR-γを刺激し,アディポネクチンの産生を亢進させ,脂肪細胞への抗炎症性作用を,ヒト培養脂肪細胞を用いたin vitroの実験系においても再現できると仮説をたてて検討した.その結果は,仮説を証明できる結果であったため,おおむね順調に進展していると考えている.
PPAR-γアゴニストの抗炎症作用機序を解明するために,腹膜炎(CLP)動物モデルを用いる実験系は継続し,あらたにCLPによる組織炎症に対するピオグリタゾンの効果について検討する.
雄性C57BL/6マウス(8-10週令)に,ピオグリタゾン(10mg/kg、i.p)を7日間前投与し,その後,盲腸穿刺結紮術(CLP)を行う.CLP後24時間の時点においてマウスの腹腔洗浄液,血清,脂肪組織を回収し,平成23,24年度と同様にTNF-α,IL-6の発現をELISA及びReal-Time PCRで解析する.また,肺の組織変化についてHE染色及びTURNEL染色を行って評価する.
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Experimental and Therapeutic Medicine
巻: 4 ページ: 84-88
10.3892/etm.2012.554