研究課題/領域番号 |
23591891
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松下 一之 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90344994)
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研究分担者 |
野村 文夫 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80164739)
佐藤 守 千葉大学, 医学部附属病院, 寄付研究部門教員 (20401002)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | がん / c-myc転写調節 / FIR / スプライシング / がん治療 / がん診断 |
研究概要 |
本研究は、癌化、細胞増殖、細胞誘導(アポトーシス)など種々の細胞イベントに重要な働きを示すc-myc遺伝子の転写とそのスプライシング調節をリンクするメカニズムを解明した、世界的にも画期的な成果を示した。すなわちFIRとSAP155の結合が、FIRによるc-myc遺伝子の転写抑制とSF3bによるスプライシングを同時に阻害することをしました。この結果癌細胞ではc-myc遺伝子の発現増大と種々の遺伝子のスプライシング阻害が起こっていると考えられる。これまでの成果により、米国のがん研究専門誌Molecular Cancer Research誌に「SAP155-mediated splicing of FUSE-binding protein-interacting repressor (FIR) serves as a molecular switch for c-myc gene expression」のタイトルで受理された。 さらに本研究成果は、発明の名称 :癌の予防剤および/または治療剤(がん細胞特異的なスプライシング阻害方法とスプライシング阻害剤)。出願番号:特願2012-048422号。出願日:平成24年3月5日(千葉大学整理番号:P11-038)、の内容で特許出願された。FIR(Flox/+)ヘテロノックアウトマウスを樹立し医薬基盤研疾患モデル小動物研究室にその受精卵と精子が保存されることになった(資源番号:nbio195)。由来:千葉大学大学院医学研究院 分子病態解析学 概要:c-myc遺伝子転写抑制因子であるFIR (FUSE-binding protein-interacting repressor)のコンディショナルノックアウトマウスである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、癌化、細胞増殖、細胞誘導(アポトーシス)など種々の細胞イベントに重要な働きを示すc-myc遺伝子の転写とそのスプライシング調節をリンクするメカニズムを世界で初めて解明した。すなわちがんではFIRとSAP155が結合することにより、FIRによるc-myc遺伝子の転写抑制とSF3b(SAP155はsubunit)によるスプライシングを同時に阻害することをした。この結果癌細胞ではc-myc遺伝子の発現増大と種々の遺伝子のスプライシング阻害が起こっていると考えられる。この成果は米国のがん研究専門誌Molecular Cancer Research誌に受理高く評価された。本研究成果は、発明の名称 :癌の予防剤および/または治療剤(がん細胞特異的なスプライシング阻害方法とスプライシング阻害剤)。出願番号:特願2012-048422号。出願日:平成24年3月5日(千葉大学整理番号:P11-038)、の内容で特許出願された。 さらに本研究により、理化学研究所基幹研究所の長田裕之博士、吉田稔博士との知己を得て、FIRあるいは癌細胞で発現するFIRΔexon2に結合する化合物を複数種類同定することに成功している(長田研究室の化合物ライブラリーからFIRタンパク質と結合するものをすくルーニングした)。現在、これらの化合物の生理活性を調べている。加えて、癌でスプラシシングを受けるFIRエキソン2の周囲には、特徴的な繰返し配列があることを見出した。現在神戸大学前小児科教授松尾雅文博士の研究室と共同で、この繰返し配列を含むミニジーンを作製している。FIRエキソン2がどのようなメカニズムでスプライシングを受けるのかを、個体差の面から検討する。FIR(Flox/+)ヘテロノックアウトマウスを樹立し医薬基盤研疾患モデル小動物研究室に保存されることになった。 由来:千葉大学分子病態解析学。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の方向性は、FIRのスプライシングメカニズムを通して癌の診断や治療に役立つより実践的な成果を得ることにある。先日した理化学研究所基幹研究所の長田裕之博士、吉田稔博士との共同研究から「FIRあるいは癌細胞で発現するFIRΔexon2に結合する化合物」をすでに複数種類同定するしてる。現在これらの化合物の生理活性を調べてると同時に、千葉大学大学院薬学研究院の星野忠冶准教授と共同して、理化学研究所で同定された化合物の構造をヒントにして、人工合成が可能でかつ細胞増殖抑制能を有する化合物の同定を試みている。 さらに癌でスプラシシングを受ける「FIRエキソン2の特徴的な繰返し配列」に関しては、繰返し配列を含むミニジーンを用いて、FIRエキソン2のスプライシングメカニズムを詳細に研究することを予定している。具体的には、「FIRエキソン2付近の特徴的な繰返し配列」を含むミニジーンに、SF3b阻害剤であるスプライソスタチンA(吉田稔博士より供与)を処理すると、その繰返し回数の違いによりエキソン2のスプライシングに違いが認められる。この結果をさらに検証したい。同時にFIRエキソン2がどのようなメカニズムでスプライシングを受けるのかを、臨床検体を用いて個体差の面から検討する。 さらに本研究の成果およびこれまでに採択された科学研究費助成事業の成果により樹立されたFIR(Flox/+)ヘテロノックアウトマウスを用いてFIRの機能解析を行い、癌化メカニズム(c-myc遺伝子の脱制御)の研究や癌の診断、治療に応用可能な成果を目指す。具体的には千葉大学医学研究院の岩間厚志教授や三木隆司教授と協力して、FIR(Flox/+)ヘテロノックアウトマウスとp53ヘテロノックアウトマウスとを交配して「FIR/p53ヘテロコンパウンドマウス」を樹立し、その表現型を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画として、主に以下の4つの研究を予定している。1.「FIRあるいは癌細胞で発現するFIRΔexon2に結合する化合物」の人工合成とその生理活性の検討。理化学研究所で同定された化合物の構造をヒントにして、千葉大学の星野忠冶准教授(薬学部)と共同して、人工合成が可能でかつ細胞増殖抑制能を有する化合物の同定を行なう。2.癌でスプラシシングを受ける「FIRエキソン2の特徴的な繰返し配列」の、FIRエキソン2のスプライシングに与える影響を分子メカニズムの面から研究する。具体的には「FIRエキソン2付近の特徴的な繰返し配列」を含むミニジーン(すでに神戸大学松尾前教授と共同で作製すみ)に、SF3b阻害剤であるスプライソスタチンA(吉田稔博士より供与)を処理し、「繰返し回数の違い」によるエキソン2のスプライシングに違いをより詳しく調べる。同時にFIRエキソン2がどのようなメカニズムでスプライシングを受けるのかを、臨床検体を用いて個体差の面から検討する(ヒトゲノムの解析に関しては、千葉大学の生命倫理委員会の承認をすでに得ている)。3.FIR、FIRプライシングバリアント、SAP155などは癌で発現が増大している。このことは、これらのタンパク質、mRNA、断片化したペプチドが癌の診断に利用可能であるtことを示唆している。本研究の次年度の研究費の使用計画には、癌の診断や治療に役立つ研究に繋げることを視野に入れている。4.「FIR/p53ヘテロコンパウンドマウス」の樹立のための交配実験にも研究費が必要である。1~4の課題を通して、c-myc遺伝子転写抑制因子FIRとSAP155の会合が、c-mycの転写抑制とSF3bの機能阻害を同時に惹起し、そのことがc-myc遺伝子の脱制御とスプライシング変化を招くことを通して、癌化のメカニズム、新しい癌診断法、治療法を開発する。
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