研究課題/領域番号 |
23591896
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
徳永 えり子 九州大学, 大学病院, 学術研究員 (50325453)
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研究分担者 |
北尾 洋之 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30368617)
秋吉 清百合 九州大学, 大学病院, 医員 (50567360)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 乳癌 / ホルモン受容体 / ホルモン感受性 |
研究概要 |
ホルモン受容体 (HR)+/HER2―乳癌に対する術後補助療法として、ホルモン療法のみでよいのか、あるいは化学療法を必要性とするのか、その判断に有用なバイオマーカーの確立は現在最も重要な課題である。この研究の目的は、HR+/HER2―乳癌に対して必要最小限で最適かつ効果の高い治療を提供するために、ホルモン治療感受性の分子機序を解明し、ホルモン感受性予測に有用なバイオマーカーを同定することである。1)GATA-3, FOXA1発現:乳癌組織においてGATA-3、FOXA1の発現を免疫組織化学法にて解析し、臨床病理学的因子やホルモン感受性との関連を解析した。GATA-3, FOXA1の発現はER陽性、PR陽性、低グレード、低Ki67値と相関していた。GATA-3, FOXA1高発現群は、特にHR陽性例において有意に予後良好であり、FOXA1は独立した予後良好因子であった。また、HR陽性でFOXA1高発現群では術後ホルモン療法単独群、化学療法追加群に予後の差は認められなかった。2)Androgen receptor (AR) 発現とホルモン感受性:乳癌組織においてAR発現を免疫組織化学にて解析した。AR高発現群はER陽性、PR陽性と有意に相関し、核グレードやKi67値と逆相関を示した。分子サブタイプ間の比較ではHR+/HER2―群でAR陽性率は最も高かった。AR発現はER陰性群では年齢による差は認められなかったが、ER陽性群では51歳以上の群で有意に高かった。AR高発現群は低発現群と比較して、全症例及びER陽性群において有意に予後良好であった。また、AR発現と予後との関連は50歳以下では認められず、51歳以上の群にのみ認められ、閉経との関連が示唆された。以上よりGATA-3, FOXA1, ARはHR陽性乳癌のホルモン感受性に関与する重要な因子であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのいくつかの施設から、GATA-3、FOXA1はホルモン受容体(HR)陽性乳癌において、良好な予後と関連することが報告されていた。本研究では日本人乳癌においても同様のことがいえることが確認された。また、FOXA1高発現群では術後補助療法としてホルモン療法のみ行なわれた症例と、化学療法を追加された症例で予後に差がなかったことから、FOXA1は化学療法追加の必要性を考える上で重要な因子となりうることが示唆され、ホルモン感受性を予測するバイオマーカーとなることが期待される。 また、ARに関しては、閉経後乳癌において予後良好な因子であることがこれまで報告されているが、本研究でも51歳以上のER陽性症例ではAR高値群で予後良好であり、閉経後HR陽性乳癌の予後予測マーカーとしての可能性が示された。 以上より研究はおおむね良好に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によりFOXA1は化学療法追加の必要性を考える上で重要な因子となりうることが示唆され、ホルモン感受性を予測するバイオマーカーとなることが期待される。そこでFOXA1のホルモン感受性予測因子としての有用性についてさらに検討を進める。具体的には、術前ホルモン療法が行なわれた症例においてFOXA1発現の解析を行ない、臨床的抗腫瘍効果、術後の病理組織による治療効果とFOXA1発現との関連を検討する。また、多因子遺伝子アッセイ(Oncotype DX)解析が行なわれた症例のパラフィン包埋切片を収集し、FOXA1発現とOncotype Dxの結果との関連を解析し、FOXA1発現解析の有用性をOncotype Dxと比較する。 また、様々な乳癌細胞株を用いて、ER、GATA-3、FOXA1、AR発現を解析し、ホルモン感受性、種々の抗癌剤の感受性との関連を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1) 術前ホルモン療法の効果とFOXA1発現との関連:術前ホルモン療法が行なわれた症例においてFOXA1発現の解析を行ない、臨床的抗腫瘍効果、術後の病理組織による治療効果とFOXA1発現との関連を検討する。2) 多因子遺伝子アッセイ(Oncotype DX)とFOXA1発現との比較:Oncotype Dx解析が行なわれた症例のパラフィン包埋切片を収集し、FOXA1発現とOncotype Dxの結果との関連を解析し、FOXA1発現解析の有用性をOncotype Dxと比較する。3) 乳癌細胞株におけるER、GATA-3、FOXA1、AR発現とホルモン感受性、抗癌剤感受性:MCF-7, T47Dなど、様々なER陽性乳癌細胞株を用いて、ER、GATA-3、FOXA1、AR発現を解析し、ホルモン感受性、種々の抗癌剤(パクリタキセル、ドセタキセル、5-FU)の感受性との関連を解析する。
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