研究課題/領域番号 |
23591896
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
徳永 えり子 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50325453)
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研究分担者 |
北尾 洋之 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30368617)
秋吉 清百合 九州大学, 大学病院, 助教 (50567360)
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キーワード | 乳癌 / ホルモン受容体 / ホルモン感受性 / FOXA1 / GATA-3 |
研究概要 |
ホルモン受容体 (HR)陽性/HER2陰性乳癌に対する術後補助療法の適応を考える際には、ホルモン感受性・耐性の評価が非常に重要である。この研究の目的はホルモン治療感受性の分子機序を解明し、ホルモン感受性予測に有用なバイオマーカーを同定することである。 まず乳癌組織においてGATA-3, FOXA1発現を解析した。GATA-3、FOXA1発現は有意に相関し、ERやPR発現、低グレード、低Ki67値など低悪性度に関連する因子と相関していた。HR陽性乳癌においてGATA-3, FOXA1高発現群は有意に予後良好であった。特にFOXA1は独立した予後良好因子であり、FOXA1高発現群では術後ホルモン療法単独できわめて良好な予後が得られることが示唆された。一方、HR陽性乳癌において、Androgen receptor (AR) 発現もER陽性、PR陽性、低核グレードや低Ki67値と相関していた。特に51歳以上でAR高発現群は有意に予後良好であった。また、50 歳以下ではAR発現量に関わらずホルモン療法施行例の方が予後良好であったが、51歳以上のAR高発現群ではホルモン療法の有無で予後に差はなく、閉経後のAR高発現はホルモン剤投与の有無に関わらず予後良好な因子である可能性が示唆された。FOXA1とホルモン療法後の予後に関しては年齢による差は認められなかった。このようにGATA-3, FOXA1, ARはHR陽性乳癌のホルモン感受性に関与する重要な因子ではあるが、その生物学的意義は異なると考えられた。 ホルモン感受性を直接評価するために、術前ホルモン療法を行った症例の、治療開始前生検標本と手術時切除標本を対象に、GATA-3, FOXA1, AR、Ki67の発現の変化を解析した。現在、これらの因子の発現の変化と術前ホルモン療法の効果、予後との関連の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホルモン受容体(HR)陽性乳癌において、GATA-3、FOXA1、AR発現は良好な予後と関連することが報告されていた。本研究では日本人乳癌においても同様のことがいえることが確認されたが、GATA-3よりもFOXA1の方が術後内分泌療法の効果を予測するバイオマーカーとしての意義が大きいと考えられること、ARには年齢との関連もあることなど、これらの因子の生物学的な違いも明らかになりつつある。 また、これらの因子のホルモン感受性との関連を調べるために、術前ホルモン療法を施行された症例を集積し、治療開始前、手術施行時の標本をそろえ、発現解析を開始することができた。 以上より研究はおおむね良好に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によりFOXA1は化学療法追加の必要性を考える上で重要な因子となりうることが示唆され、ホルモン感受性を予測するバイオマーカーとなることが期待される。また、AR,GATA-3に関してもその生物学的意義に差がありそうであり、ホルモン感受性予測因子としての有用性について、術前ホルモン療法が行なわれた症例においてさらに検討を進める。現在治療開始前、手術施行時の標本での発現解析を行っており、その治療による変化や治療効果との関連、予後との関連についての解析をすすめる。 また、FOXA1発現解析の有用性をOncotype Dxと比較するため、FOXA1発現解析の終了した検体を用いて、多因子遺伝子アッセイ(Oncotype DX)解析を行う予定である。 また、様々な乳癌細胞株を用いて、ER、GATA-3、FOXA1、AR発現を解析し、ホルモン感受性、種々の抗癌剤の感受性との関連を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1) 術前ホルモン療法の効果とFOXA1発現との関連:術前ホルモン療法が行なわれた症例においてFOXA1,GATA-3, AR,Ki67などの発現の解析を行ない、治療前後による発現変化の解析、臨床的抗腫瘍効果、術後の病理組織による治療効果との関連を検討する。 2) 多因子遺伝子アッセイ(Oncotype DX)とFOXA1発現との比較:FOXA1発現解析を行った症例においてOncotype Dx解析を行い、FOXA1発現解析の有用性をOncotype Dxと比較する。 3) 乳癌細胞株におけるER、GATA-3、FOXA1、AR発現とホルモン感受性、抗癌剤感受性:MCF-7, T47Dなど、様々なER陽性乳癌細胞株を用いて、ER、GATA-3、FOXA1、AR発現を解析し、ホルモン感受性、種々の抗癌剤(パクリタキセル、ドセタキセル、5-FU)の感受性との関連を解析する。
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