乳癌の再発・転移に対する治療は今だ困難であり、死亡率を低減させるには至っていない。近年、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem cells; MSC)が癌細胞を支持するニッチの形成において中心的役割を担っている可能性が報告された。本研究では乳癌の治療抵抗性や遠隔転移に関わるMSCを特定し、その役割を解明した上で乳癌の新たな治療戦略を創造することを目的とする。MSCの特徴とされるのは分化能と自己複製能であり、癌組織に遊走してきたMSCが自己複製を繰り返し残存している可能性がある。昨年度までの2年間は切除症例からのMSCの樹立手技の確立を目指し、当研究室で膵組織から樹立した線維芽細胞を用い、MSCのマーカーとされているCD10、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD106、CD117、CD146、CD166、CD271、Stro-1、VEGFR-1などの多数の表面マーカーの発現解析を行い、CD10及びCD271に関してそれぞれ報告した。本年度はさらにマーカー検索を進めCD146においては線維芽細胞のCD146をknockdownした後癌細胞と共培養すると癌細胞の遊走能・浸潤能が増強されていた。またその際、線維芽細胞における腫瘍促進因子CCL5・COX2などのmRNA発現が増強されていることも確認できCD146陽性の線維芽細胞が癌細胞に対し抵抗性の因子である可能性を見出した。またCD51においても同様に癌間質相互作用における意義の検討を進めた。また癌間質においてCD90とαSMAの共発現と予後との関連性を検証した。CD73に関しては、免疫染色では間質細胞に発現を認めないものの、RT-PCRおよびフローサイトメトリーでは間質細胞に強く発現を認めた。線維芽細胞内の癌間質相互作用に関わる小細胞集団分画の検索において、一定の成果を上げられたものと考えている。
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