研究課題/領域番号 |
23591899
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
石川 孝 横浜市立大学, 市民総合医療センター, 准教授 (80275049)
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研究分担者 |
千島 隆司 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (70438141)
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キーワード | CRMP2 / リン酸化CRMP2 / 乳癌 / 乳腺 / タキサン |
研究概要 |
正常乳腺および乳癌におけるCRMPの発現を観察し乳癌におけるCRMPの位置づけを解明するために下記に示す方法を実践し結果を得た. 方法①:原発性乳癌22例と正常乳腺4例を用いてリアルタイム逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応法(qRT-PCR)を施行,乳癌と正常乳腺におけるCRMP (CRMP1~5)のmRNA発現量を比較した. 方法②:方法①で発現に差を認めたCRMP2について,方法①に使用した凍結組織片から切片を作成,リン酸化型CRMP2も合わせて免疫染色を施行し蛋白レベルでのCRMP2とリン酸化型CRMP2の発現を解析した. 方法③:症例数増加のために173例の乳癌と正常対照乳腺組織のティッシュマイクロアレイ(TMA)を作成し免疫染色を施行. 結果①:qRT-PCRではCRMP1からCRMP5までの5つのサイブタイプの内,CRMP2 mRNAのみが正常乳腺と乳癌でその発現に差を認め,乳癌において有意に発現低下を認めた 結果②:凍結切片の染色においてもCRMP2タンパクは正常乳腺と比べて乳癌において有意に発現低下を認めた。一方、チューブリンの脱重合作用を有するリン酸化型CRMP2は乳癌において有意に発現上昇を認め,核内に局在することが観察された. 結果③:TMA173例の解析では,結果②と同様に,乳癌でのCRMP2の発現低下とリン酸化型CRMP2発現上昇を認めた.臨床病理学的因子との相関検討では,悪性度が高い組織学的グレードの高い乳癌とトリプルネガティブの乳癌において核内のリン酸化型CRMP2の発現が特に上昇する傾向を認め(た(p<0.001). 【結論】CRMP2の低下とリン酸化型CRMP2の上昇は乳癌のprogressionに関与している可能性が考えられた.また微小管の脱重合を促進するリン酸化型CRMP2は,タキサン系抗癌剤の新たな効果予測因子となる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画であった乳癌凍結組織片でのCRMPsのqRT-PCRと,乳癌臨床病理学的因子とCRMP蛋白発現の相関の検討のためのTMAの作製に関しては順調に計画を推進でき,またTMAは症例数が173例と比較的多数とすることができた.またTMAは作成のみならず染色による実験も完了させ統計学的な検討をすることも完了した.しかしながら平成24年度の計画であった細胞生物学的手法を用いたCRMPsと乳癌の発癌・増殖との関連性の検討に関しては十分な実験の進行状況ではない.その理由としては,上述の研究結果を途中結果として公表するために学会発表や論文化することに時間を費やしたからである.そのため雑誌「Breast Cancer」にて現在inpress(Received: 28 November 2012 / Accepted: 21 January 2013)の状態となっている.
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今後の研究の推進方策 |
①細胞生物学的手法を用いたCRMPsと乳癌の発癌・増殖との関連性の検討をおこなう. 平成23,24年度に行った免疫染色を主とした観察実験に加えて,CRMPsの乳癌に与える影響を検証するために細胞学的手法を用いた介入実験を施行し,in vitroでの整合性を図る. ②その他に,上述の研究結果より得られた,リン酸化型CRMP2のタキサン耐性因子としての可能性を実証するために,タキサン系抗癌剤による術前化学療法の症例を集積し,治療前乳癌組織におけるリン酸化型CRMP2の発現量と治療後の腫瘍の病理学的治療効果との相関を解析し,リン酸化型CRMP2のタキサン系抗癌剤における新たな治療効果予測因子としての有用性を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
上述の今後の研究の推進方法で述べた①に関して細胞株の購入,継代費用,その他自験器具.②に関して染色に使用する抗体や汎用品.研究結果を解析する電子デバイスの購入.また研究結果を公表するにあたっての論文校正費用,学会旅費等.
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