研究概要 |
エストロゲンレセプター(ER)陽性乳癌において乳癌組織のERの発現量は内分泌療法や化学療法の奏効性および予後に関与する。また、ER陽性乳癌には内分泌高感受性でKi67低発現であるluminal Aと内分泌低感受性でKi67高発現であるluminal Bサブタイプが存在することが明らかとなっている。我々は、遺伝子発現制御機構の一つとして最近注目されているマイクロRNA(microRNA)について、ER遺伝子の発現調節やER陽性乳癌の生物学的特性への関与に関する研究を行ってきた(Cancer Res 2008, Breast Cancer Res Treat 2011)。 今回我々は、ERの発現が高く Ki67の発現が低い内分泌高感受性乳癌と、ERの発現が低く Ki67の発現が高い内分泌低感受性乳癌の乳癌組織を用いてmicroRNA と mRNA のマイクロアレイ解析を行い、これら 2 群間で microRNA と mRNA の発現パターンが異なることを見出した。さらに、ERの発現が高く Ki67の発現が低い乳癌で有意に発現の低い microRNA, miR-1290 を同定し、miR-1290 の発現は、この microRNA の標的遺伝子候補である4つの蛋白(BCL2, FOXA1, MAPT, NAT1)の発現と逆相関することを見出した。ER陽性乳癌細胞を用いた検討でも、miR-1290 は FOXA1 と NAT1 発現を抑制した。ER陽性乳癌の生物学的特性に関与する microRNAと標的遺伝子が治療標的あるいは薬物療法の感受性のバイオマーカーとして有用であると推測している。幾つかのmicroRNAがER陽性乳癌の発生・進展に関与していると推測され、そのメカニズムの解明が新たな治療法の確立に繋がると考えている。
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