研究課題/領域番号 |
23591911
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
紅林 淳一 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (10248255)
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研究分担者 |
森谷 卓也 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00230160)
鹿股 直樹 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (60263373)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 乳癌 / トリプルネガティブ / PARP阻害薬 / 癌幹細胞 / 抗エストロゲン薬 / SN38 |
研究概要 |
平成23年度は、治療に難渋するトリプルネガティブ 乳癌 (TNBC)でみられるDNA修復異常(BRCA1異常など)を介して働くpoly ADP-ribose polymerase (PARP) 1阻害薬 AZD2281 (olaparib)に関する基礎研究を行った。その結果、olaparibは、1) 各種サブタイプを網羅した乳癌細胞株パネルの中で、TNBC細胞ばかりでなくestrogen receptor (ER)陽性HER2陰性乳癌細胞に対しても抗腫瘍活性を示した(50%増殖阻止濃度は2-3μM)、2)細胞周期におけるG2/M分画への集積、アポトーシスの誘導、癌幹細胞比率(CD44/CD24/ESA細胞膜マーカーやmammosphere assayで検討)の低下をもたらした、3) ERKの持続的リン酸化を誘導した、4) DNA傷害性化学療法薬SN38(イリノテカン代謝産物)と相加的に抗腫瘍効果を示した、5)SN38との併用は、さらに癌幹細胞比率の低下を引き起こすことが判明した。これらの研究成果は、英文論文として受領・掲載された。 一方、ER陽性HER2陰性乳癌細胞において抗エストロゲン薬とolaparibが相加的な抗腫瘍効果を示すことが判明した。そこで、ER陽性HER2陰性乳癌細胞における各種内分泌療法薬やolaparibの癌幹細胞に与える影響を探索的に検討中である。これまでの検討では、エストロゲンが癌幹細胞比率を顕著に増加させ、各種内分泌治療法剤がその比率の増加を阻止することが判明している。ホルモンによる癌幹細胞比率の変化を検討した研究はわずかであり、本研究もさらに進めていきたい。 これらの基礎研究は、乳癌の新しい治療戦略の開発につながる。さらに、固形癌における癌幹細胞の生物学的・臨床的意義の解明を目指して研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の用いた乳癌細胞株パネルのほとんどがいわゆる散発性乳癌由来であり、BRCA1を代表とするDNA修復障害を起こしていないためPARP阻害薬によるsynthetic lethalityは起こらないと考えられた。しかし、PARP阻害薬の新たな作用機構として、持続的なERKリン酸化の誘導、G2/M移行阻害、アポトーシス誘導、さらに癌幹細胞比率の低下作用があることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
散発性乳癌に対するPARP阻害薬の新たな作用機構が分かってきたので、さらに、TNBC細胞ばかりでなくER陽性HER2陰性乳癌細胞に対するPARP阻害薬の作用、とくに内分泌療法薬との併用効果を検討したい。また、エストロゲンや内分泌療法剤による癌幹細胞の制御機構に関する検討も加えたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の本研究は、PARP阻害薬、内分泌療法薬の乳癌細胞株パネルにおける抗腫瘍効果、癌幹細胞に与える影響などのin vitroにおける研究を中心に進める。とくに備品の購入の必要はなく、消耗品の購入に研究費を使用する予定である。
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