研究課題/領域番号 |
23591916
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研究機関 | 群馬県衛生環境研究所 |
研究代表者 |
村田 直哉 群馬県衛生環境研究所, その他部局等, 研究員 (00533473)
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研究分担者 |
岡島 史和 群馬大学, 生体調節研究所, 教授 (30142748)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 実験外科学 |
研究概要 |
内視鏡を用いた外科手術時の二酸化炭素気腹は炎症性サイトカイン産生を積極的に抑制することから、内視鏡術後の疼痛の軽減、回復に重要であることが指摘されているが、その機構は不明である。そこで、本研究では二酸化炭素気腹時に予想される細胞外pH低下がプロトン感知性G蛋白共役受容体(GPCR)の一つであるTDAG8受容体を介して炎症性サイトカイン産生を抑制するという仮説を実証し、その細胞内シグナル伝達機構を明らかにしたい。平成23年度は敗血症モデルにおけるTDAG8の役割についてインビボで解析した。リポポリサッカライド(LPS) をマウス腹腔内に投与すると、TNF-aやインターロイキン6(IL-6)などの炎症性サイトカイン産生が亢進し、LPSの投与量が多くなると多臓器不全によって死亡する。LPS投与量に応じて血中の炎症性サイトカイン濃度が上昇した。TDAG8欠損マウスについても野生型マウスと同様にLPS投与による血中サイトカイン濃度の測定と生存を測定した。その結果、TDAG8欠損マウスでは血中炎症性サイトカイン濃度が高い傾向がみられたが、有意な変化としては確認されなかった。今後、さらに例数をふやし、その点を明らかにしたいと思う。今回は生理食塩水に溶解したLPSを腹腔内へ投与した。今後はpHを変化させた生理食塩水に溶解させたLPSを用いた場合、またTDAG8以外のプロトン感知性受容体欠損マウスを用いて受容体の関与を明らかにしたい。さらにマクロファージを用いた細胞レベルの解析により、TDAG8欠損マウスでも細胞外pH低下による炎症性サイトカインの産生が抑制する。今後、他のプロトン感知性受容体の役割やpH低下作用のシグナル伝達機構を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
受容体欠損マウスを用いて、TDAG8が実際に抗炎症性サイトカイン産生に対して抑制的に機能している可能性が示唆された。今後、例数を増やすことで、その点を明らかにすれば、TDAG8アゴニストは敗血症の新しい治療薬としての可能性を提示できることが期待される。一方、細胞レベルの仕事は思うような成果はでなかったが、TDAG8の重要性は再認識できた。
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今後の研究の推進方策 |
インビボ実験で重要な結果がえられたので、今度、さらに精力的に解析する。今後はTDAG8の作用機構にくわえ、TDAG8非依存性の機構に関して集中して解析する。平成23年度はマウスを用いたインビボ実験に手間取ったことから実験の進捗が遅れ研究費の繰越しが生じたが、今後は順調に実験を行えるものと考えている。したがって、特に大きな計画の変更は考えていない。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)平成23年度に得られた結果を基にして、本年度はインビボ実験において未解決の課題を解析する。まず、TDAG8欠損マウスのLPS投与は野生型マウスに比較して高炎症性サイトカインの傾向があった。今年度は例数をふやし、この点を明らかにする。また、TDAG8欠損マウス由来のマクロファージを用い、細胞外pH低下による炎症性サイトカイン産生の応答性の違いによりプロトン感知性GPCR、特にTDAG8受容体の関与を証明する。(2)マウスマクロファージをLPS(TLR4アゴニスト)あるいはpolyinosinic-polycytidic acid (poly (I:C))(TLR-3アゴニスト)で処理するとTNF-a,IL-6などの炎症性サイトカインが産生する。この応答は細胞外pHを低下すると抑制される。このpH低下による応答抑制はmRNAレベルでも確認されているが、これらの作用の少なくとも一部はTDAG8受容体を介してLPSなどによる転写活性を抑制しているためと考えており、これらの抑制応答がTDAG8欠損マウス由来のマウスマクロファージでは減弱していることを確認する。(3)TDAG8以外の受容体の関与についても、OGR1あるいはGPR4欠損マウス由来のマクロファージで同様の実験を行う。G2A欠損マウスを保持していないが、siRNAの有効性を確認しているので、G2Aノックダウン細胞でその関与を調べる。
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