研究概要 |
本年度は、胃癌性腹膜炎発症進展におけるHGF/MET axisの役割を明らかにするために、まずin vitroでの検討としてヒト胃癌細胞株や線維芽細胞(がん微小環境の構成員)を用いて、western blot法によりMET蛋白の発現状況、また細胞培養上清や癌性腹水中でのHGF蛋白量の検討を行った。次に、今回検討したヒト胃癌細胞株すべてでMET蛋白の発現が確認されたため、HGF刺激による生物活性(増殖・遊走)、細胞内増殖シグナル(Akt, ERK)活性化の有無を検討した。 その結果、検討したヒト胃癌細胞株5種(NUGC4,NKPS, MKN45, MKN28, TMK-1)すべてでMET蛋白の発現が観察された。一方、線維芽細胞ではMETの発現は認められなかった。とくにMET遺伝子増幅が知られているMKN45株では高発現していた。リン酸化MET蛋白についても検討を行い、MKN45,NUGC4ならびにNKPS の3株で発現が確認された。また、HGFの発現状況についての検討では、胃癌細胞株5種すべての培養上清中には測定感度以下であった。一方、線維芽細胞培養上清や癌性腹水中には、1 ng/mL以上の高いHGF蛋白の存在が確認された。次に、HGFによる生物活性誘導の有無について検討した結果、胃癌細胞株5株中NUGC4細胞の1株にのみ増殖活性の誘導が確認された。本NUGC4細胞を用いてHGF刺激による細胞内増殖シグナル(Akt, ERK)活性化の有無を検討した結果、MET,AKT,ERKのリン酸化の亢進が確認された。さらに遊走活性の誘導についての検討では、すべての胃癌細胞株で有意な活性の亢進が確認された。 今年度の検討から、HGF/METが、主にパラクリン機序で胃癌性腹膜炎発症進展とくに癌間質増生を伴うび漫浸潤性胃癌の癌性腹膜炎形成への関与を強く示唆する結果と考えられた。
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